最近、公表された調査結果から注目すべき統計が明らかになった。シンガポール国立大学とニューヨーク大学上海校が共同で行った調査で、「軍事侵攻による台湾統一に賛成」と答えた人が55%に上り、反対が33%となった。また、台湾に統一を受け入れさせるための他の手段として、「台湾周辺への限定的な武力行使」が58%、「経済制裁」が57%などとなり、中国市民の間でも習国家主席が掲げる台湾統一へ支持が多いことが分かった。さらに、「中台両岸はそれぞれの政府を持ち、必ずしも統一することはない」との項目では、「受け入れられない」が71%、「受け入れる」が22%だった。
この調査は2020年から2021年にかけて行われ、1800人あまりが回答した。
一方、似たような調査は日本のシンクタンクも行っている。たとえば、外交・安全保障分野の国際会議を頻繁に開いている言論NPOは昨年7月から9月にかけ、日本人と中国人合わせて3500人あまりにアンケート詳細を行い、「台湾海峡で軍事紛争はあると思うか」との問いに対し、回答した中国人の40.5%が「将来的には起こる」、16.2%が「数年以内に起こる」と答えた。中国人で「起こらないと思う」は29.9%に留まった。一方、日本人で「将来的には起こる」と答えた割合は34.1%、「数年以内に起こる」は10.4%、「起こらないと思う」は9.0%になった。
期限のない3期目を進める習国家主席にとって、今日最も重要なのが国民の声だ。3年に及ぶ新型コロナに伴うゼロコロナ政策により、国民は日常生活で、企業は経済活動でそれぞれ制限を余儀なくされ、中国市民のゼロコロナへの不満は根強く、その矛先はそのまま共産党政権に向けられる。市民の中には家族を病院に連れていきたくても自宅から出られず、大事な人を失った人も少なくないという。
台湾情勢で緊張が続くなか、習政権にとってこういった統計は大きな安心材料となる。国民からの反発の声を無視できないなか、「軍事侵攻による台湾統一に賛成」と答えた人が過半数を超え、限定的な武力行使や経済制裁にも支持の声が多く集まったことは、今後の中国による台湾政策にも影響を及ぶす可能性がある。
そして、影響といってもそれは日本にとっては大きなマイナス要因だ。仮に、習国家主席は台湾統一、台湾への武力侵攻で国民の支持が高いと確信すればするほど、台湾への軍事的威嚇、経済制裁も強化される可能性が高い。そして、今日「台湾への武力行使で中国は失敗できない(チャンスは1度しかない)、失敗すれば習国家主席は国民からの忠誠心を失うことになる」との見方もあるが、冒頭で示したような統計が他からも明らかになれば、武力行使へのハードルはますます下がることになろう。習国家主席が、「仮に軍事作戦が上手くいかなかったとしても、国民は支持している。ならば次のチャンスを考えればいい」などと気持ちを切り替えるかも知れない。
今日、日本国内でも台湾有事を想定した議論が活発化しているが、この問題について中国市民がどう捉えているかは今後極めて重要なファクターとなろう。