今年1年で台湾を取り巻く情勢は劇的に変化したといえる。特に、8月にペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、中国は台湾を包囲するような軍事演習を行い、発射したミサイルの一部が日本の排他的経済水域に着弾した。台湾社会でも市民の間で有事を見据えた避難訓練や軍事訓練を実施する動きが拡大し、蔡英文政権も対中国で米国など欧米諸国との結束を強化している。このような中、台湾に進出する日本企業の間でも台湾有事、そしてそれに伴う日中関係悪化を見据えた動きが少なからず見られる。
たとえば、キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長は10月26日、海外の生産拠点での地政学的なリスクが高まっているとして、工場の展開など時代に見合った体制に見直すべきとして主要な工場を日本に回帰させる、もしくは安全な第3国へ移転させるという考えを示した。御手洗氏がどの程度台湾・中国リスクを本気で考えているかは分からないが、同様の認識や動きは半導体関連企業の間でも聞かれるようになった。
たとえば、筆者周辺では、台湾にいる駐在員の最小化、展開する事務所や工場の縮小など事業のスリム化を検討したり、台湾に依存していた調達先を、ASEANなど第3国へ移したりすることを検討する企業もある。有事になれば、駐在員の安全保護、サプライチェーンの安定など企業は難題に直面することになる。来年、この問題はさらにエスカレートする危険性がある。上述のような企業の動きは来年いっそう激しくなるかも知れない。
そして、それに付随するのが日中関係の悪化である。台湾有事となって米軍が関与することになれば、沖縄本島が戦火に巻き込まれることは避けられない。中国軍は嘉手納や普天間の米軍基地を攻撃することになるが、それは既に日本の有事であり、自衛隊が中国軍と軍事的に対峙することになる。そうなれば、日中関係の悪化することになり、最悪、中国にいる日本人の不当拘束が増える恐れがある。中国本土には17万人あまりの日本人がいるが、中国に進出する日本企業の間ではそういった心配の声が増え、中国からの日本への回帰、ベトナムやタイなど第3国へのシフトを検討する企業もある。
今年10月には、2016年にスパイ容疑で逮捕され、6年の実刑判決を受けた60代の男性が刑期を終えて帰国したが、同男性は判決自体も一切いわれのないもので、服役中は多くの監視員に常に監視され、トイレの時でもドアの前に監視員が待っている状況だったと当時の過酷な状況を語った。また、男性は拘束される日本人が日中関係の悪化に伴って増えるだけでなく、中国を危険な国だと認識する必要性があると訴えた。このようなケースはこの10年間だけでも繰り返し報告されており、それを回避するためにも企業は今一度中国ビジネスを真剣に再検討する必要があろう。
ニトリホールディングスや村田製作所、また最近では丸亀製麺が中国市場を拡大、投資増大させる方針を明らかにした。これは日本経済が中国依存なしでは厳しいという現実を示すものであり、中国政府は逆にこの弱みを握って日本へ強硬姿勢を示してくる可能性もあろう。来年、経営者はさらに大きな台湾、中国リスクに直面する恐れがある。