G7サミット広島が終わった。今回のサミットはこれまでの歴史の中で最も象徴的ものとなり、議長を務めた岸田総理は極めて重要な役割を果たした。そして、最大の象徴となったのは言うまでもなくゼレンスキー大統領の電撃的な訪日だ。
サミットが始まった当初、ゼレンスキー大統領はオンライン参加の予定だったが、急遽対面で参加するため、サウジアラビアのジッダから広島に向けて出発した。20日夕方前に広島空港に到着したゼレンスキー大統領は、すぐさまサミット会場に向かい、スナク首相やマクロン大統領、モディ首相などと相次いで会談した。
翌日にはサミットのウクライナ情勢や平和と安全に関するセッションに参加し、原爆資料館や平和公園を岸田総理と訪れ、最後に「戦争に勝利する」「広島のようにウクライナの復興を目指す」という決意を世界に向けて演説の中で発信し、帰国の途についた。
ゼレンスキー大統領も言及していたように、ウクライナ軍は不法占拠を続けるロシア軍に対する大規模な反転攻勢を開始するという。そのような過密なスケジュールの中、広島の訪問したゼレンスキー大統領の目的はどこにあったのだろうか。少なくとも大きく2つの目的があったように思う。
1つは、原爆投下の悲劇を受けた広島という存在だ。今日、ロシア軍は戦況で劣勢が続き、今後の反転攻勢によってさらなる弱体化を余儀なくされれば、プーチン大統領の脳裏には核という文字が鮮明になってくる。要は、今日ウクライナは核使用という現実的脅威にさらされており、ウクライナ軍優勢と核使用の脅威は皮肉にも比例的な関係にあるのだ。
それを十分に認識しているゼレンスキー大統領としては、このタイミングで世界唯一の被爆国の広島から反戦、核使用反対という強いメッセージを世界に向けて発信することで、ロシアを強くけん制する狙いがあった。被爆都市・広島から被爆の脅威にさらされている国の大統領が核使用反対を訴えるという、極めて象徴的な出来事が21日に現実のものとなった。
そして、もう1つの狙いはグローバルサウスの存在だ。今回のサミットにはG7諸国だけでなく、韓国やオーストラリアに加え、インドやブラジル、インドネシアやベトナムなどいわゆるグローバルサウスの国々が参加した。
ウクライナ侵攻以降、ロシアへ制裁を実施しているのは欧米日本など40カ国あまりにとどまり、グローバルサウスには欧米と中国ロシアのどちらにも寄らない国々が多い。グローバルサウスの盟主であるインドも、自由民主主義という価値観を欧米と共有する一方、ロシアとの経済関係を維持している。
今日、世界ではG7の影響力が薄まるなか、グローバルサウスの存在感が強まっており、ゼレンスキー大統領には第三国的立場を維持するグローバルサウスの国々に軍事、経済的支援を呼び掛けることで、自らの陣営に引き込みたい狙いがあった。そういう意味で、今回のサミットというタイミングを利用し、多くの国々の指導者と意見を交わせたことは同大統領にとって大きな成果となった。特に、大国として台頭しつつあるインドのモディ首相と会談できたことは、今後大きな意味を持つかもしれない。
当然のことだが、G7広島サミットとゼレンスキー大統領の訪日について、中国とロシアは早速反発している。中国は在中日本大使を呼び出して強く抗議するなど、対抗措置を辞さない構えだ。しかし、今こそ自由や人権、民主主義といった価値観を共有する国々の連携が求められている時はない。韓国のユン政権の誕生で日韓関係も劇的に改善し、今後はG7やクアッド、EUやNATOがグローバルサウスと如何に強固な関係を作れるかが最大の課題だろう。