中国「反スパイ法」危険な改正 高まる邦人拘束のリスクに真剣に向き合うべき

治安 太郎 治安 太郎

米中対立や台湾情勢、高い経済成長率の維持など多くの課題に直面する中、習政権は国内での監視の目を強めている。日本の国会にあたる全国人民代表大会の常務委員会は4月26日、2014年に施行された反スパイ法の改正案を可決し、7月1日から施行されることになった。反スパイ法の改正は今回が初となる。

この反スパイ法改正案は昨年末に中身が示されたが、スパイ行為の定義の範囲が大幅に拡大され、これまで取り締まり対象だった「国家機密の提供」などに加え、「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品の提供や窃取」などもスパイ行為になった。

また、昨年末に示された改正案にはなかったものとして、スパイ組織やその関係者による国家機関や重要インフラなどへのサイバー攻撃もスパイ行為と見なされるようになった一方、改正前から恣意的な運用が指摘されてきた「その他のスパイ活動」という文言は依然として残っている。

 今回の改正案では、「国家の安全と利益」という箇所があるが、当然ながらこれは言い換えれば、「共産党統治の安全と利益を阻害すれば」、もっと言えば「習政権の安定を少しでも脅かす行為をすれば」ということであり、その対象は外国人であり中国国民となる。そして、この反スパイ法の改正からは、今日の習政権の敵は大きく2つに分かれる。1つは、中国と安全保障的に対立する米国や日本、台湾となる。

最近台湾有事が内外で叫ばれるが、米中の軍事力が拮抗し、しかも台湾周辺の軍事環境が中国有利に傾いていると言われる中、習政権としては軍事・安全保障に関わる情報や戦略などが対立国に流れることは絶対に避けたい。米国との対立が先鋭化する中、習政権はこれまで以上に国内でのスパイ活動に神経を尖らせており、中国国内にいる外国人、外国権益への監視の目はいっそう強まることは間違いない。

そして、もう1つの敵が国内から拡大する反不満分子だ。今日の習政権にとっての敵は外からだけではない。3年に及ぶ徹底したゼロコロナにより、中国国内では企業の経済活動は大きな制限を受け、それも影響してか中国の経済成長率は鈍化傾向にある。国内での経済格差も広がり、中国国内では習政権や共産党の統治に対する経済的、社会的不満が強まっている。これまで共産党政権は国防費より治安維持費に多くの予算を充ててきたように、今日の習政権は国内からの敵の存在に強い警戒感を示しており、今回の反スパイ法改正は中国国民にも照準を合わせたものだ。

たとえば、上海にある裁判所は4月、人民解放軍の施設を撮影してそれを外部者に不法に提供した容疑で逮捕された中国人女性に対し懲役5年の実刑判決を言い渡している。中国当局は、この女性が外国の要員の要請によって軍事施設を撮影し、見返りに報酬を受け取ったと発表しているが、それ以上のことはベールに覆われている。

また、新型コロナの感染拡大による中国政府の対応をSNS上で非難して逮捕された男性に対しても、4月に懲役3年の判決が下された。この男性は当時、世界からコロナ発生地と言われた武漢での悲惨な医療現場などを取材した後に新型コロナは人災だなどと中国政府を批判し、その後治安当局に拘束され消息が分からなくなっていた。

当然ながら、改正反スパイ法は日本人を意図的に拘束するものではない。しかし、米中対立や台湾を巡る情勢が悪化することで、日本と中国の関係も厳しくなってきていることは疑いの余地はない。そして、改正反スパイ法が法的にではなく政治的解釈で運用されるという現実を考慮すれば、在中邦人の拘束が今後数としては増えるリスクを我々は真剣に考えるべきだろう。

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