“謎の気球”は中国「軍民融合」の一端 脅威はより身近なところに

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昨今、米国上空で撃墜された気球を巡って米中間で対立が激しくなっている。これまでの報道によると、この気球は中国の偵察用気球で、中国軍で宇宙やサイバーなどいわゆる軍事的新領域を専門とする専門部隊が運用に関与し、人工衛星による偵察を補う役割を担っていたという。

通常、人工衛星での偵察では、偵察国の上空にいれる時間は限られ、雲などが覆えば衛星から十分に偵察できない場合がある。そこで役立つのが偵察用気球とされ、作るのにそれほどお金も掛からないことから、中国軍はその強化に努めているとみられる。一方、中国は気球について気象研究を目的とする民間の無人飛行船との立場を示しているが、我々は習政権が進める「軍民融合」という言葉を忘れるべきではない。

昨年の秋、異例の3期目を開始した習国家主席は、中国式現代化・社会主義現代化強国の実現を目指し、軍民融合政策を撤退する方針を改めて強調した。軍民融合とは文字通り、民間漁船の武装化、民間技術の軍事転用など軍民の壁を超えた政策のことで、今日では、ハイテク兵器の開発に必要な先端半導体を巡る米中の対立が大きな問題となっている。

バイデン政権は昨年10月、先端半導体に必要な製造装置や最新技術が軍事転用される恐れを警戒し、中国に対してそれが流れないよう規制する方針を打ち出した。しかし、製造装置で世界的シェアを有する日本やオランダの協力なしには有効打にならないことから、バイデン政権は今年1つにホワイトハウスを訪れや岸田総理とオランダのルッテ首相に、対中半導体輸出規制に加わるよう要請した。結局、米国ほど厳格に規制を敷くわけではないものの、日本もバイデン政権主導の対中半導体輸出規制に参加することになった。これも今回の偵察用気球と同じように、中国の軍民融合政策を警戒する日本や米国の動きの一環である。

日本は今後いっそう中国による軍民融合に警戒する必要があろう。日本でも以前偵察用気球と見られる物体が発見されたことがあるが、軍民融合による脅威はもっと身近なところにある。それが、スパイ活動だ。習政権は反スパイ法を強化し、今後も在中邦人が拘束、逮捕されないか懸念されるが、逆に日本には今日スパイ活動を十分に取り締まる法律はない。

東京では、ロシア大使館勤務の防衛駐在官などが流暢な日本語を話して日本人と仲良くなり、一緒に飲みに行ったり、お土産を渡したりするなどして重要な情報を聞き出すといった手口が見られたが、中国当局が似たような手口を強化する恐れもあろう。民間人だが中身はスパイということも十分にある。これも軍民融合のリスクだ。  

また、日本では2021年6月、土地取引規制に関する新法が設定され、国内にある自衛隊基地や海上保安庁の施設、原子力発電など周辺における不動産売買で、安全保障上のリスクがあれば、国が土地や建物の所有者の氏名や国籍、賃借権などを調査できるようになった。それ以前、日本では外国人の土地購入規制について事実上規制できる法律はなく、自衛隊周辺に中国企業が土地を買って諜報活動を強化するなどの懸念が広がっていた。この土地取引規制に関する新法のように、今後日本は身近にある軍民融合政策への取り締まりをさらに強化する必要がある。今回の偵察用気球は、中国の軍民融合政策の1つに過ぎない。

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