リアル「北の国から」 酪農一家の24年を追った映画「山懐に抱かれて」が大反響

黒川 裕生 黒川 裕生

岩手県東部の田野畑村で、完全放牧の酪農に取り組む大家族の24年間を描いたドキュメンタリー映画「山懐(やまふところ)に抱かれて」の上映が、31日のシネ・ヌーヴォ(大阪)を皮切りに、関西でも始まった。自らの手で山を切り開き、限りなく自然に近い状態で牛を育てる「山地酪農」の実現に奮闘する夫婦と5男2女の厳しくも幸せな日々を、地元のローカル放送局が丹念に追い続けた力作。すでに封切られた各地の劇場では満席の回が出るなど、熱い反響を巻き起こしている。舞台挨拶で大阪を訪れた遠藤隆監督に話を聞いた。

主人公は吉塚公雄さん、登志子さん夫妻。公雄さんは東京農業大学在学中、植物生態学者・猶原恭爾が提唱する山地酪農に出合い、人生を捧げる決意をしたという。大学卒業後の1974年、23歳のときに千葉から田野畑村へ移住。プレハブで暮らしながら山を開拓し、登志子さんや日々成長する子供たちと力を合わせて牛を世話してきた。当初は電気もなく、家へ続く道も舗装されていないというまさに“リアル・北の国から(初期)”状態だった。

遠藤監督は、テレビ岩手の報道部記者だった1994年6月、別の酪農家から「純粋な男がいる」と紹介されて吉塚さんの取材を開始。山地酪農に取り組む公雄さんのまっすぐな思いに感銘を受けながらも、家の中がぼろぼろなことに驚いたという。

「あちこちに蜘蛛の巣が張っていて、鍋も錆だらけ。室内なのに、隙間から吹き込んだ雪が背中に積もるような有様でした。子供たちも週に1回くらいしかお風呂に入れないので、まあ汚いんですよね。でもみんな明るくて、笑いが絶えない。取材を始めてすぐに『面白い家族だな』と思いました」

当時は年収も100万円ほどしかなく、年々借金が膨らむ一方だった吉塚家。しかし遠藤監督が取材を始めて2年ほどしてから、プライベートブランド「田野畑山地酪農牛乳」を立ち上げて牛乳の生産を始めたところ、テレビ効果もあって注文が相次ぐようになった。ブランド設立には遠藤監督も深く関わったといい、「ずっと一緒にやってきたという思いが強い」と振り返る。ちなみに、本作でナレーションを担当している女優の室井滋さんも、田野畑山地酪農牛乳を愛飲しているそうだ。

映画は、これまで撮りためた1000時間にも及ぶ映像素材から、「人と自然との関わり」をテーマに据えて編集した。幼かった、あるいはまだ生まれてもいなかった子供たちが成長し、酪農の仕事や家事を手伝うようになるたくましい姿はもちろん、厳しい自然環境の中で完全放牧を貫く難しさなどを、四季折々の美しい映像を織り交ぜて丹念に描いている。

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