新型コロナウイルスの感染拡大を受け、二度目の緊急事態宣言が出されました。
当初から、医療逼迫(ひっぱく)を避けなくてはならない、と強調されてきましたが、感染が拡大している地域では、新型コロナ用の病床が埋まり、入院・宿泊療養の待機者が増え、受け入れ先がなく入院を待っていた陽性者が、自宅療養中に亡くなる、当初軽症であっても容体が急変するといったケースも、増えています。
日本は人口当たりの病床数が世界最多(人口1000人当たり13.0)で、感染者数は(激増しているとはいえ)、欧米に比して相対的にはまだ低いはずなのに、どうして医療がここまで逼迫してしまうのでしょうか。
医療従事者の方々は、それぞれの現場で日々懸命に力を尽くしておられます。お話を聞いても、心身の負荷は相当なものです。
医療への負荷を減らすためには、まずは感染者を増やさないことが重要です。
ただ、どれほど気を付けて過ごしていても、感染することは多々ありますし、感染は誰のせいでもありません。大切な命を救うためには、この医療の状況をなんとか改善せねばなりません。
問題の所在
これには、いくつかの複合的な要因があります。
〇新型コロナ患者を受け入れている病院は、すでに病床が埋まっている
現場の医療従事者の方や、調整に当たる関係各所の方に話を聞いても、「コロナ用に用意された病床は、すでに満床になっていて、受け入れ要請が来ても断らざるを得ない」というケースが増えています。
〇新型コロナ患者を受け入れている病院の数が十分でない
新型コロナ患者の受け入れ状況に関する調査(厚労省の有識者会議「地域医療構想に関するワーキンググループ」(2020年10月21日))によると、20床以上ある全国8280病院の中で、政府のシステムに報告があった7307病院のうち、
<受け入れが可能かどうか>
・新型コロナ患者を「受け入れ可能」と回答したのは1,700(23%)しかなく、そのうち実際に「受け入れ実績がある」のは1353(80%)で、受け入れ可能であるが受け入れ実績がない病院は347(20%)
・病院の設置者別では、新型コロナ患者を「受け入れ可能」と回答したのは、自治体運営の公立病院69%(694のうち482)、国立病院機構などの公的病院79%(748のうち592)、民間病院18%(2759のうち502)
病床数や病床機能、人員配置や機器設備等は、病院によって大きく異なるので、すべての病院が新型コロナ患者を受け入れ可能なわけではありません。ただし、「受け入れ可能ではない」と回答した病院も、行政からのサポートや院内の工夫等によって、受け入れが可能となる場合もあると考えられます。
<実際の受け入れ実績は?>
・7307病院のうち、新型コロナの入院患者の「受け入れ実績がある」のは1353病院(19%)、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を使う重症患者を扱っているのは307病院(4%)
<重篤な患者を扱う急性期病棟を持つ病院のうち、実際に受け入れているのは?>
さらに、7307病院のうち、重篤な患者を扱う急性期病棟をもつ4201病院で見てみると、新型コロナの入院患者の「受け入れ実績がある」のは、
・「500床以上」88%、「200床以上500床未満」60%、「100床以上200床未満」17%、「100床未満」5%
・機能別では、ICU(集中治療室)のある病院75%(重症者を受け入れているのは28%)、3次救急病院86%(同55%)、2次救急病院31%(同4%)
・病院の設置者別では、公立病院53%、公的病院69%、民間病院14%
〇経営悪化、風評被害
新型コロナ患者を受け入れる場合には、院内や人員の感染防止策を徹底する必要があり、治療自体にも多くの人手がかかります。そして、他の患者さんが感染をおそれて来なくなったり、他の疾病の手術や治療ができなくなったりすることで、病院の経営が大幅に悪化します。院内でのクラスター発生や風評被害が、こうした状況にさらに拍車をかけます。職員やその家族が差別されることもあります。こうした様々なことをおそれて、受け入れを躊躇する病院も多いのです。
〇病床・病院再編の途上
そもそも日本は、トータルの病床数が多いといっても、規模の小さい病院が数多く存在し、人員や病床を効率的に使えず、病床と病院の再編は大きな課題だったのですが、議論が進まないままに、新型コロナで問題が噴出してしまいました。