苦節25年の演歌歌手、コロナ禍で大ピンチも…愛犬にも支えられ「全曲集」発売でいざ勝負

吉見 健明 吉見 健明

 神奈川・茅ケ崎在住で間もなくデビュー26年を迎える演歌歌手の沖田真早美が、この11月に集大成とも言うべき「全曲集」を発売する。昨年9月には記念の新曲「葉桜しぐれ」をリリースし、順調にキャンペーンを展開していたが、コロナ禍により予定していたイベントがすべて中止に。しかし、持ち前の明るさと愛犬・小太郎くんのサポートを得て勝負に出る。

 生まれ育った茅ケ崎の海で愛犬の小太郎と戯れるのが沖田にとっては一番のリラックスタイムだ。今年はコロナの影響で人出は極端に少ないが、この場所に来ると自然と力が湧いてくる。

 「江ノ島とえぼし岩のコラボ。やっぱり、私はこの海の景色が大好きだし、小太郎くんにはいつも癒やされています」

 歌うことの楽しさに目覚めたのは3歳のころ。その後、地域のカラオケ大会で人気者となり、歌手を夢見るようになった。1994年に「風笛(かざぶえ)」でデビュー。以来、マネジャーでもある母の晴留子さんと二人三脚で歩み、シングル14枚(全28曲)、アルバム2枚、DVD1枚をリリースしている。

 「実は演歌でデビューする予定ではなかったんですよ。なで肩に着物が似合うという当時のプロデューサーのひと言で決まったんです。でも、そのころは曲をいただけるだけで満足でした」

 歌い続ける中で多くの出会いにも恵まれた。2004年「宵化粧」で作曲家の市川昭介氏と出会い「詩の世界の主人公になって歌わないといけない」ことを学んだ。

 2006年には海峡シリーズの大御所で作詞家の木下龍太郎氏と「江ノ電」線路沿いの甘味処であんみつを食べながら「海峡ざんげ」の曲をいただいたことに感謝。「自身の成長につながった」という。

 その後、2009年には日本作詞大賞最優秀新人賞受賞曲「夢っ娘アカネの三度笠」を発売。テレビ東京「日本作詞大賞」の舞台で熱唱してもいる。

 「出会ったすべての先生に感謝していますが、一番嬉しい言葉をいただいたのは桧原先生なんです。“辛抱強く2人でヒット曲を出そうね”と」

 全曲集にも収録されている「有明の月」「落下繚乱」「竹林の庵(やど)」「湯の街しぐれ」「凌霄花~のうぜんかずら」は、その桧原さとし氏が作曲を担当。キャンペーンに回ると男性ファンがカラオケでよく歌う曲だそうだが、沖田さんはこれら5曲を歌う度に自然に涙が込み上げてくるという。

 「こうした数々のいい曲をいただきながら結果を出せない自分が歯がゆくて悩みの連続でした。でも、この海を眺めていると負けじ魂が湧いてくるんです」

 昨年9月に25周年記念としてリリースした「葉桜しぐれ」には、これまで以上の手応えを感じている。曲は桜の葉が雨のように舞い散る様を見て、つらい別れを乗り越える女性の心理を歌い上げるもの。哀愁と感情のこもった艶歌となっており、数々の人生経験を積んだ沖田さんだからこそ、歌いこなせる曲と言っていい。

 実際、リリース後は順調に全国を行脚し、好評を博した。しかし、2月下旬にコロナ禍に見舞われ、演歌歌手の生命線でもあるキャンペーン活動を自粛。歌手人生最大のピンチを迎えたが「ステージで会える日を楽しみにしている」というファンの声に勇気をもらったという。

 自宅応接間の壁には“おきたまさみ”の名前で綴られた額が飾られてある。

(お)おくの出逢いに支えられ
(き)ょうも明日も
(た)えて忍んで
(ま)っすぐ進め
(さ)いげつ重ねた
歌の(み)ち

 この額は大阪で大衆劇団の座長を務める方の奥様から贈られたもので「悩んでいたとき、真早美ちゃんの歌を聴いて少し光が見えて救われました」との手紙も添えられていた。

 「わたしの知らないところでわたしの歌が役に立っている。この額をいただいてからは泣いている場合ではないと思いました」

 思えば、過去にはこの応接間で母と何度も大声で喧嘩し、時には2人で亡くなったお父さんのところに行こうかと泣き明かした夜もあった。そんなときには10年前からチームの一員となった小太郎くんも仏壇の前でワンワンと悲しく鳴いていたという。

 「コロナの影響で歌う機会がありませんでしたが、久しぶりに着物を着てステージに立つ機会がありました。歌えるだけで幸せと感じました。やっぱり、わたしは歌が大好き。歌える喜びを再認識しました」

 いまはNHK紅白歌合戦に出たいとか、ヒット曲にこだわっていた自分が小さく見える。人は考え方ひとつで長いトンネルから抜け出せるものなのだろう。沖田は迷うことなく演歌の道を「真っ直ぐ」進むつもりだ。

 ◇「全曲集~有明の月・葉桜しぐれ~」(2818円+税)は11月4日発売予定。沖田真早美オフィシャルブログ「上から読んでも、下から読んでもま・さ・み・さ・ま」も好評。  

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