一箱5000円のジャガイモも買ってしのいだ日々 餓死寸前の高齢者も…コロナ禍・ロックダウンされた上海で、日本人主婦が見たものとは

襟川 瑳汀 襟川 瑳汀

黒崎 話は前後するのですが、上海市のPCR検査については私はちょっと不信感を持っていました。PCR検査は、細長い綿棒を鼻の奥に突っ込んで粘膜を採取しますよね。この場合、一名の検体につき一本の試験管に保管するのが常識だと思います。しかし上海市の場合、一本の試験管に十数名分をまとめて入れていたのです。もしその試験管の中に一名の陽性者がいれば、残る九名は陰性であったとしても疑似陽性となり、隔離施設に送られる可能性がある。私はこれがとても心配でした。

 しかもその心配は、2日にいっぺんの頻度でするわけです。「常に爆弾を抱えている」という感じで、非常なストレスがありました。いつ陽性といわれるかわからない状況の中で生活をしていました。結果的にはゼロコロナ政策期間中は陽性と診断されることはなかったわけですが、検体をあんな雑に扱われてどうして無事だったのかはわかりません。

上海市ロックダウンの通知は、ロックダウンの2日前に来た

--2022年の3月末からは、上海全体でロックダウンが始まりました。

黒崎 ロックダウンの通知はいきなり来ました。3~4日上海市をロックダウンするから食料を備蓄しておきなさいと中国政府から、ロックダウン予定日の2日くらい前にね。すでに世界はデルタ株からオミクロン株に移行しており、withコロナとかいって、コロナとの共存の方向性が志向されている状況でした。上海市内でも新規感染者が急増したわけでもないのに、なぜ今ごろになってロックダウンするのか理解できませんでした。

 政府は「3~4日ロックダウン」といっていましたが、私は「実際は1週間くらいかかるだろう」と予測して、さらに念を入れて10日分ほどの食糧を備蓄しておこうと思いました。蓋を開けてみたら10日どころか2カ月以上もロックダウンされたわけですけれど。

 中国政府からの通知を聞いて私はすぐにスーパーマーケットに食料品の買いだめに走りました。市内は、パニックというほどではありませんでしたが、みな山のように食糧を買いまくっていて、棚からは商品はほとんど消えていました。私が買えたのは卵が数十個と米、いくばくかの野菜、小麦粉くらいのもので、保存の効く缶詰やレトルト食品などはほとんど手に入りませんでした。それでも私は自宅に備蓄してあるものも含めて、家族の10日分くらいの食料は確保できましたけれど、中には政府のいうことを鵜呑みにして3~4日しか蓄えなかった・蓄えられなかった人もいたでしょう。

 食料が足りなくなったら? 買物なんか行けるわけがありません。店も開いてないし、そもそも市民は自宅にほぼ軟禁されている状態なんですから。「ロックダウン」とはそういうことです。

 上海の住宅は、基本的に団地なんです。日本でいえば千里ニュータウンとか高島平団地とか、そんな感じの団地群が各所にある。この団地は必ず、3メートルくらいの高さの塀で囲われています。で、囲いの東西南北とか、最低でも2ヶ所にはゲートがあるので、そこを閉めてしまえば人の出入りはできなくなる。中世の城塞都市みたいな感じですね。塀を乗り越えて外にでることは不可能ではありませんが、そんな真似をしたら大変なことになるとは上海市民もちゃんとわかってました。おそらくは高度な顔認証システムと連動しているであろう監視カメラも設置されていますからね。

食料が足りなくなって、一箱5000円のジャガイモを買う

--3~4日ぶんの食料しか備蓄していなかった人はどうしたんでしょう。

黒崎 ロックダウンも10日を経過したあたりで配給が来るようになりました。買物にはもちろん行けないし、店舗のデリバリースタッフも自宅に軟禁状態にされていたのですからね。とはいえ配給は、頻繁には来てくれませんでした。10日に一度くらいだったと思います。注文? できるわけないです。チンゲン菜がダンボールに1箱とか、鶏の羽根をむしったやつがまるごと一羽とか、日本人には扱いづらいものが一方的に送られてくるだけ。それでも、あるだけとてもありがたいという感じで受け取っておりました。

 で、やっぱり嫌な話というのはあって、みんなSNSやグループチャットでつながっていますからね、「隣のアパートには配給が来たのにこっちにはこない」みたいな情報が頻繁に共有されるんです。後から知ったことですが、中国共産党の幹部退職者が多く住んでいる地域では配給は頻繁に行なわれていて、だから食糧に困ることはなかったようです。私たち家族のような庶民的なアパートだとそうもいかない。食糧が足りなくなると、みな精神的余裕がなくなるため、SNS上の書き込みもかなり荒れていたように思います。

 あとは外国の政府関係者とか、報道関係者とかが住んでいる地域にも頻繁に配給が行ったという話も聞きました。だからね、これはロックダウン中にTVで見たんですけれど、そういう「上級」の人たちのところに、たぶん特別な許可を得たカメラクルーが入って段ボール箱を映して「配給の食料がこんなに少なくなりました」と報じる、なんてのがあった。でもそれは私の目からすれば質量ともにすばらしいもので、「なーにが『少なくなりました』だよ。うちよりずっといいじゃねえか」と毒づいたことでした。

 嫌な話はまだあります。配給で届いた食料を住民に差配する役目の人がこっそり高値で横流ししたとかね。これは噂話としてではなく、報道で目にしましたから本当にあったことでしょう。

  ロックダウンから1カ月もすると、特にインフラ系の仕事をしている人には働いてもらわないとしょうがないということで、全員ではありませんが外出許可が出たんです。すると目端の効く人なんかはどこからか食料品を仕入れてきて高値で売る、なんてことをする。わが家ですか? 買いましたよそういうのも。いくらくらいだったかな…、小ぶりの段ボール箱にジャガイモと玉ネギ、ニンジンなどが入って送料込みで日本円で5000円とか、そんな感じでした。選り好みができる状況ではなかったので、とりあえず食糧が手に入りそうという情報があれば値段関係なくすぐにオーダーしてました。

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