中国経済が減速する中、日本企業の間でも脱中国が進んでいる。中国の国家外貨管理局が2月18日発表した昨年の国際収支によると、日本企業を含む外国企業による直接投資が日本円で4兆9500億円あまりに留まり、前年比で82%減少し、30年ぶりの低水準になった。
また、中国に進出する日本企業で構成される中国日本商会が1月発表したアンケート調査の結果によると、2023年の対中投資について、「しない」が全体の23%、「前年より減らす」が25%と半分近くを占め、「同額」が38%、「増加」と「大幅に増加」が合わせて15%となり、成長率が鈍化する中国経済や当局による経済的威圧、改正反スパイ法など中国への懸念、慎重姿勢が見られる数字となった。
では、具体的に日本企業はどういった懸念を持っているのか。特に多いのが、貿易上の懸念だ。一昨年10月、バイデン政権が先端半導体の軍事転用を防止するため、中国に対する先端半導体分野の輸出規制を強化し、日本も昨年7月に先端半導体の製造装置など23品目で対中輸出規制を始めた。しかし、その後、中国が希少金属のガリウムとゲルマニウム関連で輸出規制を強化し、日本産水産物の輸入を全面的に停止したことで、企業の間ではサプライチェーンが遮断され、今度は自社に影響が及ぶのではないかと不安の声が多く聞かれる。特に、これは日本産水産物の全面輸入停止という“明らかに日本を対象とした”措置が取られて以降、そういう流れが強くなっている。
そして、最近ではこれにプラスして今年秋の米大統領選でトランプ氏が勝利し、米中貿易戦争が再び始まることへの懸念も広がっている。トランプ氏はホワイトハウスに戻れば中国製品に一律60%の関税を課すとも言及しており、再選を考えなくていい2期目では自分のやりたいことを1期目以上に大胆に行う可能性もある。
こういった懸念から、中長期視点に立って脱中国依存を図り、日本国内への回帰、またはインドやASEANなど第3国シフトを行動に移す動きが企業の間で広がっている。バイデン大統領とトランプ氏は理念や価値観はまるで異なるが、数少ない共通点が対中姿勢であり、米市民の間でも中国への警戒論が広がっていることを鑑みれば、その対立構図は長期的に続き、その影響は日中間の経済や貿易にも波及する可能性がある。
現時点で中国からの完全撤退を進めている企業は見られないが、駐在員の数の削減や調達先の第3国化など中国事業のスマート化を検討する企業は増えており、治安や労働環境など中国にはないリスクはあるものの、インドやASEANなどグローバルサウスの国々へ接近する動きが広がっている。
しかし、中国市場がアキレス腱になっている企業も多い。上述の中国日本商会による調査結果では、2024年以降の中国市場について、「一番重要な市場」または「3つの重要な市場の1つ」と回答した企業が全体の51%を占めたように、依然として日本企業にとって中国が欠かせないことも事実である。当然ながら、企業にとって中国への依存度、第3国への代替可能性は大きく異なり、中国リスクについてそれを十分に認識しつつも企業の経営を考慮すれば脱中国依存は難しいとする企業も多い。