中国が福島第一原発の処理水放出に伴い、日本産水産物の全面輸入停止に踏み切ってから1年がちょうど過ぎた中、それが段階的に解除されることが日中双方から最近発表された。
解除の発表に至るまで、日中の間では幾度も交渉が積み重ねられてきたが、最後のところ、日本側が中国の要求する条件に合わせる形で合意に至ったとされる。中国は、国際原子力機関の枠組みの中での長期的な国際モニタリング体制を構築すること、中国が独自に処理水のサンプル採取を行って分析することなどを日本側に求め、その上で中国側による科学的な根拠を元に基準を満たした日本産水産物の輸入を段階的に再開するとしている。
しかし、日本が処理水放出を開始した時点で、国際原子力機関や米国など多くの諸外国は基準を満たしたもので問題なしとしており、中国による全面輸入停止は科学的根拠に基づくものではなく、政治的な思惑によるものと判断するべきだろう。先端半導体をめぐる米中の覇権競争が激化し、日本が米国と足並みを揃える形で中国向けの半導体輸出規制を強化したことで、中国は核汚染水を強調する形で日本産水産物の全面輸入停止に踏み切ったと考えられる。
では、なぜ中国はこのタイミングで全面輸入停止の解除を発表したのか。中国側は日本が中国の要求を受け入れた理由を挙げているが、核心はそこにはなく、いくつかの理由が考えられる。
まず、中国の国内事情として、日本産水産物が出回らなくなって以降、中国国内ではその分中国産水産物の使用が広がり、この1年で中国産水産物の値段が値上がりしている。中国の経済成長率は勢いを失い、不動産バブルが崩壊し、若年層の失業率は高い水準で推移し、市民の経済的不満は根強い。そのような状況で中国産水産物の値段高騰が続けば、その不満は中国政府に向けられる可能性がある。
また、国際社会からの孤立の限界も見え隠れする。上述のように、諸外国は日本産水産物を積極的に輸入する一方、中国のみが頑なに拒否反応を継続すれば、中国の諸外国からのイメージが悪化する可能性も排除できない。今日、中国はグローバルサウス諸国との関係を極めて重要視しており、これ以上の輸入停止は中国の孤立化を進めるだけとの判断があったことも考えられる。
しかし、理由は何であれ、日本の水産業者はこれまでのように脱中国依存を徹底し、輸出先の多角化を推し進め、中国回帰の動きに戻ってはならない。
近年、中国は日本だけでなく台湾やオーストラリア、欧州のリトアニアなど多くの国々に対して一方的に輸出入を停止するなど、経済的威圧を仕掛けており、日中関係の間で摩擦が激化すれば、日本産水産物が再び貿易規制に遭う恐れがある。