日本車にも25%関税を正式表明 トランプ政権の“例外なし”明言に広がる混乱と、日本政府の苦しい立場

和田 大樹 和田 大樹

トランプ米大統領が3月26日(現地時間)、日本を含むすべての輸入自動車に対して一律25%の関税を導入する方針を正式に表明したことに、筆者周辺の企業関係者の間では動揺と混乱が広がっている。無論、これは十分に予想できたことではあったが、やはり回避困難な難題が正式に発表されたことで、製造業だけでなく、次は自らが直接的な影響を受けるのではないかと他の業種業界からも懸念の声が聞かれる。一方、回避できないリスクであるので、トランプ関税に対する耐性を付けて向き合っていくという現実的な意見も聞かれるが、今回の発表はトランプ政権2期目の対日姿勢を正直に示しているように映る。

日本政府は適用除外を強く求め、経済産業省の武藤容治大臣が米国商務長官と会談し、日本企業の米国経済への貢献を訴えたが、トランプ氏はこれを受け入れなかった。この背景と狙いを、経済政策、通商戦略、外交的意図の観点から分析すると、複数の要因が絡み合う複雑な動機が浮かび上がる。

まず、背景として、トランプ政権の経済政策における「アメリカ第一主義」が挙げられる。トランプ氏は選挙戦から一貫して、米国の製造業復活と雇用創出を最優先課題として掲げてきた。自動車産業は米国経済の基幹であり、2024年の日本からの対米輸出額のうち約28.3%を自動車が占めるなど、輸入車が国内生産に与える影響は大きい。現行の乗用車関税は2.5%であるが、これを25%に引き上げることで輸入車の価格競争力を削ぎ、米国での生産を促す狙いがある。トランプ氏は会見で「米国の解放の日の始まり」と述べ、国内産業保護を強く意識していることが伺える。日本例外を認めなかったのは、同盟国であっても経済的競争相手と見なす姿勢の表れであり、例外措置が国内産業への保護効果を薄めると判断した可能性が高い。

次に、通商戦略の観点から見ると、関税は単なる経済政策を超え、交渉の「カード」としての役割を担っている。トランプ政権は第1期でも鉄鋼・アルミニウムに25%の関税を課しつつ、カナダやメキシコとの交渉で譲歩を引き出した実績がある。政権2期目でも、関税発動後に各国との個別交渉を通じて米国に有利な条件を獲得する戦略が想定される。日本に対しては、自動車貿易における不均衡是正を求める意図が背景にある。トランプ政権は日本との貿易赤字を問題視しており、2024年の日本からの自動車輸出額は6兆261億円に上る一方、米国から日本への自動車輸出は限定的である。トランプ氏は日本市場の非関税障壁、例えば車検制度や規制を不公平と批判してきた経緯があり、関税を通じて日本に市場開放や米国車輸出拡大を迫る狙いが推測される。日本による適用除外の要請を拒否したのは、1つに交渉開始前に譲歩を示すことで主導権を失うのを避けたかったためと考えられる。

さらに、外交的意図として、トランプ氏の関税政策が同盟国との関係にも影響を及ぼす点を無視できない。第1期政権では日本やEUに配慮した例外措置が設けられたが、今回は「すべての国が対象」と明言し、同盟国への配慮を後退させた。これは、バイデン政権が日本に鉄鋼の関税割当を認めていた方針を覆すもので、トランプ氏の強硬姿勢を際立たせる。日本が米国経済に貢献してきた実績を強調したにもかかわらず例外が認められなかった背景には、同盟関係よりも国内支持基盤へのアピールを優先する政治的計算がある。2026年の中間選挙を見据え、製造業労働者層に「米国を守る大統領」としての姿勢を示す必要があったのだろう。また、中国への対抗意識も影響している可能性がある。中国製自動車の流入を警戒する米国にとって、日本を含む全面的な関税は、アジア全体への牽制として機能する狙いも考えられる。

しかし、この政策にはリスクも伴う。25%の関税が米国内の自動車価格を押し上げれば、消費者負担が増大し、インフレ懸念が高まる。野村総合研究所の試算では、日本車に25%の関税が課された場合、日本のGDPが0.2%程度押し下げられるとされているが、米国経済にも波及効果が及ぶ可能性がある。それでもトランプ氏が強行したのは、短期的な経済的打撃よりも長期的な産業回帰と貿易赤字削減を重視したためである。日本例外を受け入れなかったのは、こうした大局的な目標を損なう妥協を避けた結果と解釈できる。

結論として、トランプ大統領が日本例外を受け入れなかった背景と狙いは、国内産業保護と雇用創出を最優先とする経済政策、交渉を有利に進めるための通商戦略、そして同盟国よりも国内支持を重視する外交的意図が交錯した結果である。日本にとっては、関税発動後の交渉で米国に譲歩を迫る戦略が求められるが、世界経済全体への影響も見据えた対応が必要となるだろう。トランプ氏の強硬姿勢は、日米関係に新たな試練をもたらす可能性を秘めている。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

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