今年になってロシアがウクライナへ侵攻するかしないで世界で緊張が続いている。プーチン大統領が強硬な姿勢を貫く背景には、冷戦以降NATOが徐々に徐々に東方へ拡大し、遂には隣接するウクライナまでもがNATO勢力圏に覆われるという強い危機感がある。ウクライナのゼレンスキー大統領は最近もNATO加盟はウクライナの悲願だとする意思を示しており、たとえ今回の緊張が収まったとしても本質的なリスクは依然として残ることになろう。
一方、長年北方領土の問題を抱える日本としては、米国が世界の警察官からの撤退を標榜するなか、その政治的空白をロシアがどう突いてくるかを注視していく必要があろう。メディア報道はウクライナ情勢に一本化されているが、ロシアが覇権を目指す地域は何もウクライナ、東欧だけではない。ロシアの覇権主義が東欧や中央アジア、シベリアや北極圏などロシア周辺でみられることは不思議ではないが、近年、それは中東やアフリカなどにも拡大しているのだ。
2011年のシリア内戦以降、ロシアはアサド政権への支援を強化している。シリア南東部ラタキアにあるフマイミーム航空基地などロシア空軍は同国に軍事拠点を持ち、最近では地中海東部で海軍による軍事演習を実質するためシリアに最新鋭の戦闘機や極超音速ミサイルなどを配備するなど、中東での影響力確保に努めている。2月に米軍の特殊部隊がシリア北西部イドリブ県でイスラム国最高指導者を殺害したように、米国も同国に数百人レベルの軍事プレゼンスを示しているが、シリアにおけるロシアの軍事的プレゼンスは米軍に対して今日圧倒的に優勢だ。ロシアが中東シリアを重視する背景には黒海に繋がる地中海地域でプレゼンスを強化したい狙いがある。ロシアの南下政策を世界史などで勉強した人も多いだろうが、それは今日でも健在である。
また、経済的に最後のフロンディアと言われるアフリカでもロシアの覇権主義が近年見られる。最も顕著なのがロシアの民間軍事会社「ワグネル」を巡る動きだ。コロナ禍でもアフリカではテロ事件が増加傾向にあり、特にマリなどのサヘル地域やナイジェリア、モザンビークやソマリアなどではイスラム過激派が活発に活動している。そのような国々の中には自国の軍や警察だけではイスラム過激派を抑えきれない国が多く、マリや中央アフリカではワグネルに雇用された傭兵たちが現地に派遣され、そこで治安維持の任務を担っている。クレムリンはワグネルとの関係を否定しているが、多くの元ロシア軍兵士たちが退職後傭兵としてワグネルに雇用されているとみられ、欧米諸国は結局はロシアのアフリカにおける覇権主義と位置付けている。
こういった中東やアフリカなど拡大するロシアの覇権主義を我々日本人はどう理解するべきだろうか。ロシアの対外的覇権主義が北方領土にだけ援用されないことは絶対にあり得ない。中国の力が拡大するに伴い、我々日本人はその南方にばかり注目しがちであるが、北方におけるロシアの動きにも警戒する必要があろう。