北欧の一国・リトアニアはなぜ中国に強く反発するのか 背景にソ連による「抑圧」の歴史…平成まで続いた恐怖政治

新田 浩之 新田 浩之

「中国重視か台湾重視か」、世界各国は中国との接し方に悩んでいます。そんな中、台湾との関係を重視しているのがバルト3国のひとつ、リトアニアです。中国は台湾がリトアニアに代表機関を開設したことに反発し、リトアニアとの外交関係を格下げしました。中国との距離をとる歴史的背景を持つ国なのでしょうか。

「北欧」の一国として存在感を示すリトアニア

中学や高校の地理の授業で「エストニア、ラトビア、リトアニア」の順に覚えた方も多いと思いますが、リトアニアはバルト3国の最も南に位置します。面積は日本の約6分の1にあたる6.5万平方キロメートル、人口は約279万人です。

首都は内陸部に位置するヴィリニュスです。長らく「東欧」に分類されることが一般的だったリトアニアですが、近年は「北欧」の一国として積極的にアピールしています。

バルト3国のひとつという認識から「エストニア、ラトビア、リトアニア、すべて同じような国でしょ」と思う方も多いと思います。結論から先に述べると、リトアニアは歴史的に西隣のポーランドとの関係が深いです。

16世紀にはリトアニア大公国とポーランド王国が「合同」し、東ヨーロッパの大国として君臨しました。またエストニアとラトビアがプロテスタントが主流なのに対し、リトアニアはポーランドと同じカトリックが主流の国です。

過酷だったソビエト連邦によるシベリアへの追放 

社会主義国の中国に強く反発しているリトアニアですが、歴史的一因には1990年代まで続いたソビエト時代があるのでは、というのが筆者の意見です。

1940(昭和15)年にリトアニアはエストニア、ラトビアと共にソビエト連邦に併合されました。第二次世界大戦中にナチス・ドイツにも占領されましたが、1944(昭和19)年にソビエト連邦は再占領し、「リトアニア・ソビエト社会主義共和国」としてソビエト連邦の一共和国でありました。

1940年代から1950年代前半までのスターリン時代はリトアニアにとって最大の不幸の時代といっても過言ではありません。罪を犯さなくても社会主義、ソビエト連邦に好ましくない人物という烙印を押されたら、逮捕、そしてシベリアへ追放されました。

リトアニアに限らず、スターリン時代は夜になると警察が来訪し、連行・収容されることも珍しくありませんでした。首都ヴィリニュスにあるKGB博物館では当時の収容施設などが保存・公開されています。

シベリアへは粗末な貨車に押し込まれ、「ラーゲリ」と呼ばれる収容所に。老人やこどもも関係ありません。1948(昭和23)年~1949(昭和24)年の間に約7万人以上、1951(昭和26)年に約2万人が追放され、追放先で亡くなった方も少なくありませんでした。

スターリン死後、「ラーゲリ」は大幅に縮小され、追放された人々は母国へと戻っていきました。しかし、当時のリトアニア共産党第一書記は「ラーゲリ」に収容されていたリトアニア人の帰還に消極的だったといわれています。

平成の時代まで続いた自由への抑圧 

スターリン亡き後は大々的な逮捕は影を潜め、インフラ整備が進みました。しかし、独立運動やソビエト体制に対する反対運動は厳しく弾圧されました。1972(昭和47)年にリトアニアの第二都市であるカウナスで、ソビエト体制に対する抗議を示すためにリトアニア人青年が焼身自殺しました。この事件を機に抵抗運動が発生しましたが、当局は厳しく弾圧したのです。

1985(昭和60)年にゴルバチョフがソビエト連邦のリーダーになり、「ペレストロイカ」「グラスノスチ」と呼ばれる改革・情報公開を実施。当局にとって不都合な歴史的真実が次々に暴かれ、独立への機運が高まりました。

ところが、ゴルバチョフ書記長はリトアニアをはじめとするバルト3国の独立に強く反対。これに対し、リトアニアはエストニア、ラトビアと連帯し、1990(平成2)年に「独立回復宣言」をしました。

しかし、ソビエト連邦は1991(平成3)年1月に首都ヴィリニュスにて暴力を用いて独立の機運を抑え込もうとしました。この事件では多数の市民が犠牲になり、「1月事件」と呼ばれています。

最終的に国際社会からの後押しもあり、ソビエト連邦は1991年9月にリトアニアの独立を承認。独立以降、リトアニアは民主主義国家としての歩みを着実に進め、2004(平成16)年にはEU(欧州連合)に加盟しました。

リトアニアは権威主義的な国である隣国ベラルーシからの政治亡命者を受け入れています。このような歴史的経緯もあり、「独裁」や「人権侵害」にはとても敏感といえるでしょう。今後の中国との向き合い方から目が離せません。

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