「亡命ロシア料理」とは?水は一滴も入れず、鶏肉とタマネギを1時間半煮込むだけ「帰れ、鶏肉へ!」が話題

太田 浩子 太田 浩子

「帰れ、鶏肉へ!」という料理が、ツイッターで話題になっています。

 そのレシピは「鶏肉の大きなかたまりとタマネギを用意する(鶏肉400gにつきタマネギ中2個)。鍋の底にバターの小さなかけら、月桂樹の葉、粒胡椒、鶏肉、タマネギを入れて、水は一滴もいらない! 塩を振り、弱火にかけて、その場を離れる。
 掃除なり、愛なり、独学などに精をだせばいい。台所にいなくったってすべてはうまくいくのだから。一時間半程たてば、汁の滴る素晴らしい料理ができあがる」というもの。

「水もいらない」「包丁もほぼ使わない」「ほったらかしでできる」というレシピと、おいしそうな写真に1.5万リツイートと4.2万の“いいね”がつきました(6月22日現在)。

ツイートには、
「お料理の名前にグッときました。おいしそうですね。作ってみたいです!」
「作ってみました。肉はホントに柔らかくなって美味しかった! 月桂樹と胡椒の代わりにニンニクを入れました。」
「作りました!本当に肉ホロホロで玉ねぎ甘くて美味でした。我が家の定番にします」
「感動するほど簡単」
「帰れソレントへ!を口ずさみながらつくりたい。」
というコメントが寄せられています。

 ツイートしたのは、新聞記者の「おぐにあやこ(@ayaoguni)」さん。レシピ紹介には「米国に亡命した二人のロシア人、ピョートル・ワイリ、アレクサンドル・ゲニスの名著『亡命ロシア料理』より」と書かれています。

 おぐにさんに今回のツイートについて取材を申し込みましたが「あのツイートが広く拡散された理由はたぶん、『亡命ロシア料理』『帰れ、鶏肉へ!』というネーミング、料理のシンプルさと味わい深さ(レシピとしての優秀さ)、それを綴ったワイリ&ゲニスという二人の亡命者の文章の妙(と翻訳の妙)の3つです。そのどれにも、私は絡みませんから、私のツイートよりぜひレシピを収めた本を紹介してください」というお返事でした。

 すぐに書籍をネットで検索してみると、ツイートが話題になったことで、どこも在庫切れ。そこで「亡命ロシア料理」の出版元である「未知谷」(東京都千代田区)の飯島徹さんに話を聞きました。

──「亡命ロシア料理」はレシピ本なのですか?

 ロシアからアメリカに亡命したユダヤ人が、故郷を懐しんでロシア料理を作ろうよっていう本です。手の入らない材料もあるけれど、これを使えば作れるよみたいなことをふたりのエッセイストが書いたんですね。エッセイの中のレシピは、『塩適量』とかそういう感じのものですから、普段料理を作っている方ならだいたいできるだろうと思います。

 内容は文化批判みたいな感じですかね。地についた文化というのは、食とかそういうところからが根本だと。故郷ロシアを忘れないようにという趣旨のものです。どなたも故郷の味ってお持ちじゃないですか。それを思い出して作ってみようという一助になればいいな、というのが基本だと思うのです。

──純粋なレシピ本ではなく、アメリカとロシアの食に注目した料理エッセイなんですね。ツイートが話題になりました。

 古い本なんですけど(初版1996年)、いい本でずっとロングで売っていたんです。以前にも手持ちが少なくなってきたころにツイートしてくださった方がいて、1週間くらいで全部売れてしまったんですよ。重版と思ったんですけど、システムが変わってしまっていて作り直さざるを得なくて新装版という形にしたんです(2014年)。それ以降もいろんな方がツイートしてくださって、5刷まで来ています。そろそろ補充しないといけないなと言っていたところで今回のツイートがありました。ツイートで生き返った本という感じですね。

実際に「帰れ、鶏肉へ!」を作ってみた!

 筆者も「帰れ、鶏肉へ!」をつくってみました。焦がしてしまったというリプライもありましたが、煮込み用の蓋がしっかりしまる厚めの鍋を使うのがポイントのようです。心配な方はタマネギを多めにすると水分がたっぷり(間違えて鶏肉200グラムに玉葱2個で作ってしまいましたが、うまみがたっぷりのスープがたくさんできました)。

 タマネギの効果か、鶏肉は勝手にくずれてしまうくらいホロホロ。スープは想像以上に濃厚です。さらに材料がシンプルなので応用がきくのも嬉しいところ。筆者は初日はそのままいただき、次の日にしめじとトマトを足して楽しみました。ロシア料理らしく、サワークリームを添えてもよさそうです。料理エッセイ「亡命ロシア料理」を片手につくってみては。ちなみにネットは価格がつり上がっているところもあるようですが、税込み2200円の本です。

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