「クリミア半島はウクライナかロシアか」…。ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合してから7年が経ちます。遠い国のお話に聞こえますが、ロシアとの間で領土問題を抱える我が国にとって決して無視できない事柄です。鉄道事情の変遷からも、ロシアのクリミア半島支配の実情がリアルに感じられます。
多くの国々が反対している「クリミア併合」
クリミアの面積は約2万7千平方キロメートルとなり、日本で例えると九州と四国の間になります。黒海に面しており、ウクライナとは地続きになっています。一方、ロシアとは地続きになっていません。
クリミアは昔から目まぐるしく領有者が代わり、現在はウクライナとロシアの間で領有権争いが発生しています。
第二次世界大戦後、クリミアはソビエト連邦ロシア共和国に属していました。1954(昭和29)年、フルシチョフ第一書記がクリミアをロシア共和国からウクライナ共和国に移管しました。当時はウクライナもソ連に属していたので、大きな問題にはなりませんでした。
1991(平成3)年にウクライナがソ連から独立すると、クリミアは「クリミア自治共和国」としてウクライナ領になりました。当時からクリミアにはロシア系住民が多かったのですが、ロシアも「クリミアはウクライナ」という事実を認めていました。
2014(平成26)年にウクライナで起きた「マイダン革命」の混乱に伴い、クリミアでは一方的に独立ならびにロシア連邦への編入が決まりました。ロシアは「クリミアの人々の意思を尊重する」としていますが、クリミアの混乱はロシアが介入したことから、多くの国々がロシアによるクリミア併合に対して反対しています。
現在、日本政府はクリミアをウクライナ領としていますが、ロシアは実効支配をしています。
ウクライナが統治時のクリミアの鉄道事情
クリミアは観光地として知られ、地政学的にも大変重要なところです。そのためクリミアには鉄道路線が敷かれています。
ウクライナが統治していた2010年版「ヨーロッパ時刻表」でクリミアの鉄道事情を確認してみましょう。当時、クリミアの鉄道はウクライナ本土とつながっており、中心都市のシンフェローポリを通り軍港のセヴァストポリに至る路線とエフパトリアに至る支線がありました。
セヴァストポリ行きはウクライナの首都キエフ発はもちろん、モスクワやベラルーシの首都ミンスクからの列車もありました。またベルリンからの直通列車もあり、EU圏とクリミアとのつながりがあったことを当時の時刻表は証明しています。一方、クリミアとロシアの間にあるケルチ海峡を結ぶ鉄道はありませんでした。
ロシアの実効支配で…ガラリと変わった時刻表
クリミアがロシアの実効支配を受けてから、鉄道はどのように変化したのでしょうか。2020年版「ヨーロッパ鉄道時刻表」を見ると、ウクライナ本土とクリミアの間で鉄路が切れていることが確認できます。もちろんキエフからクリミア行きの列車は運行されていません。
一方、ケルチ海峡には鉄道路線が開通し、モスクワやサンクトペテルブルクからセヴァストポリ行きの直通列車が運行されています。
ロシアはロシア本土とクリミアを結ぶ「クリミア大橋」の建設を2015(平成27)年からはじめました。この橋は鉄道道路併用橋となり、鉄道は2019年12月に完成しました。つまり、クリミアとロシア本土が鉄道と道路で直接結ばれたのです。
2021年9月時点のロシア鉄道の時刻表を見ますとモスクワ、サンクトペテルブルクの他に北極圏にあるムルマンスクやシベリア鉄道の主要駅オムスクからの直通列車も設定されています。
個人的にはシベリア鉄道とクリミアの旅が一度に楽しめるのはとても魅力的に映るのですが…。しかしコロナ禍が終了しても、日本はクリミアをロシア領とは認めていないため、当地への旅行は控えたほうがいいのでしょう。