新型コロナ対策は何を目指すかを明確にすべき 「対策」は「目標」によって変わる

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

保健所業務を地域の診療所や民間事業者へ委託。診療所による往診・治療。医療機能を強化した宿泊療養施設の拡充等 <病状を悪化させない>

「新型コロナ患者の入院は、原則重症者に限る」という政府方針転換の問題点は、前回述べた通りですが、忘れてならないのは、「軽症・中等症」と「重症」は、全く別のものというわけではない、ということです。基本的には、軽症・中等症の方が、病状が悪化して重症になるわけで、であれば、「重症者を亡くならせない」という前の段階として、軽症・中等症の方に適切な医療を提供することで、「重症者を増やさない」ということも、極めて重要になります。

重症者を増やさない、自宅療養中に亡くなるような方を出さないために、以下のような方策を取ることが必要だと思います。

(ⅰ)保健所・自治体の健康観察や調整業務を充実させるために、地域の医療機関や、民間事業者への委託を活用する。

以前からずっと言われていることですが、現下の状況で、入院調整や健康観察、濃厚接触者追跡といったすべてを保健所・自治体に委ねるというのは、明らかにキャパシティを超えています。新規感染者の急増で、新型コロナ検査陽性の結果が出てから、保健所から連絡が来るまで数日を要することもあります。そして、陽性者に対しては、入院・宿泊療養調整、そして、引き続きの健康観察や買物代行といった形で、継続的なサポートが必要です。

保健所の増員が難しいのであれば、東京都など一部地域で行われていますが、健康観察等を、地域の医療機関や民間事業者へ委託して行っていただくといった方策を、広く考えるべきです。

(公共サービスを民間委託することについては、法理論上、「相当程度の裁量を行使することが必要な業務や、統治作用に深く関わる業務(公の意思の形成に深く関わる業務や、住民の権利義務に深く関わる業務等)については、民間委託になじまない」とされていますが、住民の権利義務に深く関わる業務であっても、守秘義務やみなし公務員規定などの必要な措置を講じることで、法令上民間委託が可能とされます。)

(ⅱ)地域の診療所が往診(治療、酸素投与等も)するなど、積極的に役割を果たしていただく。

陽性の検査結果が出ても、保健所から連絡が来るまでの間、医療との関わりが一切無い、そして、連絡が来ても、病院にも宿泊療養施設にも入れない、という状況があることも、ご本人や家族にとっては、大変心細いことです。そして、必要な医療が提供されないまま、自宅療養中に亡くなることの無念は、計り知れません。

陽性結果が出た方に対しては、自治体の「フォローアップセンター」だけではなく、当該地域の診療所が、電話や往診といった形で、感染した方のフォローをしていただくということが望ましいと思います。東京都の一部地域では、症状が悪化した場合には、往診で酸素投与や投薬治療も行われています。

ただ、都の委託で新型コロナ患者の往診等を手掛ける医師は、約550人ほどで、都内2万2千人(全国では7万4千人)を超える自宅療養者を、十分にケアできる状況ではありません。ある医師は「感染をおそれ、診療所内に反対の声もあった。診療所内のマンパワーは限られているし、往診だといろいろな検査ができない・機器が使えないといった限界もある。しかし、今やれることを、頑張ってやるしかない。そして、みんなの力を結集しないと乗り切れない。」とおっしゃっていました。まさにそのとおりだと思います。

「国民の生命と安全を守る」-『安全・安心』というのは、こういった「使命感と熱意と具体的な行動」があって、初めて実現できるものなのだと思います。

(ⅲ)医療機能を強化した宿泊療養施設を増やす。

さらに、一軒一軒往診に回ることに要する時間や労力を考えれば、医療機能を強化した宿泊療養施設を増やし、軽症・中等症の方をそこに集めることで、限られた医療資源を有効に活用し、患者の不安に応え、急変に迅速に対応することが可能になります。

そもそも、「重症者以外は、基本的に自宅療養」という政府方針は、家庭内感染をどんどん増やし、急変にも対応できないといった点で、問題が多いといえます。

なお、新型コロナウイルスの軽症から中等症の患者の重症化を防ぐ「抗体カクテル療法」について、これまでは入院患者に限っていましたが、8月13日の厚労省通知で、宿泊療養者も対象として認められることとなりました。抗体カクテル療法は、発症後、できるだけ早期に投与することが重要なので、アナフィラキシーへの対応等に留意しつつ、使用できる状況が増えることは望ましいと思います。

ただし、抗体カクテル療法の薬剤は、中外製薬の親会社であるスイス・ロシュと米リジェネロンが海外で製造したものを国が買い上げ、新型コロナ対応に当たる病院に配布する、ということになっていますが、現時点でロシュ等の製造能力は、世界で年間約200万回分と限られており、日本の調達予定量は年内20万回分です。

「期待が大いに高まったのに、結局、不足して必要な人が使えない」ということが繰り返されないか、心配です。重症化リスクの高い方に限って使用するといった、現実的な対応が求められます。 

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