新型コロナ対策は何を目指すかを明確にすべき 「対策」は「目標」によって変わる

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

臨時の新型コロナ病院の開設が必須。医療スタッフは全国から確保<亡くならせない>

「高齢者のワクチン接種が進んだこと等により、感染者は増えていても、これまでに比して、重症者・死者は少ない」との主張がなされることがあります。確かに、「数字だけ」見るとそういうことになるのですが、しかしながら、一人の方の死であっても、ご本人やご家族にとっては、甚大な苦しみ悲しみであり、それに、必要な医療が適切に受けられないことで、自宅療養や入院調整中に亡くなる方が出てきていることは、決して看過できることではありません。東京都では、自宅療養者が2万人を超え、今月に入り18日時点で、少なくとも7名の方が自宅療養中に亡くなっています。

また、呼吸状態に異変の生じた自宅療養者に酸素を投与する「酸素ステーション」が設置されることになっていますが、それはあくまでも、病院への入院を待つ間、命をつなぐ・重症化を防ぐといったための一時的な応急処置に過ぎず、「酸素を投与したら、病状が回復して自宅に戻る」という前提でシステムを構築すると、実態を見誤ります。やはり、必要なのは、「必要な医療を、適時適切に提供できる病床と医療スタッフ」です。

実は特措法では、都道府県知事は「医療機関が不足して、医療提供に支障がある場合には、臨時の医療施設を開設し、医療を提供しなければならない。」とされています。つまり、医療が逼迫した状況において、臨時の新型コロナ病院を開設することは、都道府県知事の「義務」なのです。(もちろん、国が開設することもあり得ます。)

(※)新型インフルエンザ等対策特別措置法

(臨時の医療施設等)

第31条の2 都道府県知事は、当該都道府県の区域内において病院その他の医療機関が不足し、医療の提供に支障が生ずると認める場合には、その都道府県行動計画で定めるところにより、患者等に対する医療の提供を行うための施設であって都道府県知事が臨時に開設するものにおいて医療を提供しなければならない。

現在、もはや我が国の既存の病院では、新型コロナ用の病床をこれ以上確保することはできない、ということなのであれば、他国のように臨時の新型コロナ病院を早急に作るべきです。数百・数千の病床を1か所にまとめることで、比較的少ない医療スタッフや医療資源を有効に活用して、多くの患者に対応することができるようになります。がんや脳・心疾患治療等、新型コロナ治療と同様に重要な、通常の医療への影響も抑えることができます。

他国の例も参考になります。

例えば英国は、NHS(National Health Service)という国営の医療システムで、病院の9割以上が公的病院で国の管轄下にあり、2020年3月からのロックダウン時には、短期間で国内の医療体制を新型コロナ感染症用にシフトしました。新型コロナ用の病床・ICUの増床、さらに重症患者も受け入れ可能な「ナイチンゲール病院」という専用の仮設病院が全国に設けられました。

また米国では、連邦制の下で各州政府の権限が強く、各州の実情に応じて、州知事等が強力な権限を行使しました。ニューヨーク州では、2020年3月、州内の病院に病床増床の命令を発するとともに、大型展示場に1000床など、州内8か所に臨時病院を設置、米海軍の病院船の使用も政府に要請し、9万床を確保しました。

日本でも、グループ病院が、駐車場に数十床のコロナ病床を作るなど、例があります。

臨時の新型コロナ病院を開設することについては、「医療スタッフが集まらない」、「ECMO等の機器が足りない」といった声を聞きます。確かに、重症者の集中治療は、医療の中でも難しい分野で、ECMOや人工呼吸器を適切に使用できるようになるには、かなりのトレーニングが必要とされます。特に、新型コロナが発生してから、こうしたトレーニングを担える指導者自身が、現場で新型コロナの対応に当たっているため、トレーニングを進めることができず、なかなか対応できる人員が増えないとも聞きます。

しかし、できない理由をいくら並べ立てていても、命は救えません。「危機だ!!」というのであれば、完璧でなくても、やれることを最大限なんでもやる、ということが必要だと思いますし、そうした気概を持たれている方も多くいらっしゃると思います。

自衛隊の医官・看護官やフリーランス、感染拡大がひどくない地域の医療従事者の方々に来ていただくなど、「救える命」を「救えたはずの命」にしないために、今こそ知恵と力を絞るときだと思います。(なお、自衛隊には、紛争地での重篤な治療に対応できる医官1000人、看護官1000人が所属しており、今回国が設置したコロナワクチンの大規模接種センターには、医官90人、看護官200人が派遣され、8月25日のセンター終了後は、それぞれの勤務地に戻られる予定です。)

新型コロナワクチンの接種には、国が音頭を取り、大幅に報酬を上げ、自治体も様々に募集をかけて、医療従事者を集め、急ピッチで進めました。一方で、国民の命を救うための医療従事者が集められない、でよいはずがありません。

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