政府のコロナ対策は「机上の空論」「国民の気持ちを逆撫で」 いま国民が求めているのは真摯な回答と行動

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

政府は、新型コロナウイルス感染症の入院対象を「重症者」や「重症化リスクがある人」を中心に絞る方針を示し、併せて、病状把握のための開業医による往診やオンライン診療の活用、治療法としての抗体カクテル療法の推進などが示されました。

 これまで私は、行政や政治の現場を経験してきた者として、単なる批判をするということは避け、現下の状況を様々踏まえた上で、「国民のためになる、実現可能な方策はなにか」という観点から、できるだけ前向きな意見を述べるようにしてきました。

ただここのところ、残念ながら、「いや、さすがにそれは、机上の空論過ぎるでしょう…、国民の気持ちを逆撫でしてるでしょう…」と思うことが増えてきました。

問題点を挙げてみます。

・病状は刻一刻と変化する。
・重症化しても、すぐには入院できない。
・自宅療養のサポートも、すでに手が回らない状態
・抗体カクテル療法は、自宅で使える?
・「新型コロナに対応できる医療提供体制」にしておくべきだった

病状は刻一刻と変化する

新型コロナ感染症の「中等症Ⅰ」は、呼吸不全はないものの息切れ・肺炎の所見があり、「中等症Ⅱ」は、呼吸不全があり、酸素投与が必要な状態ですから、入院治療が必要な場合もありますし、そもそも「軽症」や「中等症」の人も、ずっとそのままなわけではなく、適時に適切な治療が受けられなければ、「重症」になり「死亡」することもあるわけです。

「オンライン診療」は言うまでもなく、「往診」でも、CTなどは使えませんので、診療時に患者の病状を精緻に把握し、さらに、「将来的に重症化するかしないかのリスク」まで、正確に判断することは困難です。往診医が、慎重を期して入院させようと要請すれば、病院には断られる可能性が高く、一方で、往診時は自宅療養と判断したものの、その後容態が急変したような場合には、往診医の判断が間違っていたと言われて、過度に責任を問われるおそれも出てきます。これでは、適切な医療の状況とはいえません。

大変残念なことですが、東京都内で、新型コロナウイルスに感染し、自宅療養中に死亡したとみられる方は、8月1日から5日までの時点で、少なくとも8人(30代1人、40代1人、50代6人)にのぼります。都内で自宅療養中に新型コロナで死亡した方は、2020年12月から2021年7月までの8カ月間で11人とのことですので、今月に入り、自宅療養者の死亡が急増していることが、深く憂慮されます。

重症化しても、すぐには入院できない

「重症化した場合は、すぐに入院できるようにする。(だから安心してほしい)」とのことですが、本当にそれが可能なのでしょうか?

現時点でも、すでに、救急搬送の受け入れ先が決まらない、長時間救急車の中で待機する、という事態が、すでに発生しています。「救急医療の東京ルール」(救急隊による5医療機関への受入要請又は選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案の件数)は、8月4日時点で、97.7 件(直近7日間平均)にのぼっています。

自宅療養のサポートも、すでに手が回らない状態

自宅療養する方には、保健所・自治体の迅速なサポートが不可欠ですが、以前より、保健所の逼迫は深刻です。東京都では、保健所や都が運営する「自宅療養者フォローアップセンター」が病状確認などを担い、「LINE」による健康観察や1週間分の食料品の配送、パルスオキシメーター(血液中の酸素飽和度を測定する機器)の貸し出しなどを行うことになっています。しかし、8月5日公表時点の東京都の自宅療養者は1万6913人、入院・療養等調整中の方は1万543人と急増しており、自宅療養者への最初の連絡が、陽性の診断から数日かかるなど、すでにかなり滞っています。

保健所の方々の「とてもじゃないけど、人手が足りなくて回らない」という状況は、以前の感染拡大時から何も変わっていません。1994年の地域保健法制定以降、全国で保健所の統廃合が進み、「母子保健など住民に身近なサービスは市町村で、広域的な専門業務は保健所で」とされ、この25年で保健所の数はほぼ半減(約850→約470)しました。こうした経緯を踏まえた現状の分析と今後の改善についても、早急に検証が求められます。

「安心して自宅療養して」という言葉は、陽性という検査結果が出て、不安を抱える患者やご家族、そして、奔走しても対応しきれないもどかしさを抱える続ける保健所や自治体、医療従事者の方々の耳に、一体どう響いているでしょうか。

「抗体カクテル療法」は、自宅で使える?

新型コロナ感染症の治療薬として、これまで国内では重症・中等症用として、抗ウイルス薬「レムデシビル」(米ギリアド・サイエンシズ)、抗炎症薬「デキサメタゾン」(日医工など)、リウマチ薬「バリシチニブ」(米イーライ・リリー)の3種類が転用されていました。7月19日に、抗体カクテル療法(「カシリビマブ」「イムデビマブ」と呼ぶ2種類の抗体を1回点滴する)が特例承認されました。「抗体カクテル療法」は、軽症・中等症患者に早期に投与することによって、重症化を防ぐ効果が期待されていますが、点滴薬なので、投与時に医療従事者の時間をかけた関与が不可欠です。自宅や宿泊療養施設で、適時適切に投与できる体制作りが鍵になってきます。また、ワクチン同様、十分な量を確保することができるのか、副作用への懸念への対応といったことも重要だと思います。

「新型コロナに対応できる医療提供体制」にしておくべきだった

今回の方針転換は、「感染爆発による医療逼迫を起こさずに、重症者が適切に治療を受けられるよう、重症者以外の入院を制限する」ということが理由とされています。(なお、8月4日時点で、東京都の病床使用率は52.8%(3380人/6406床))、そのうち重症病床使用率は、68.5%(827人/1207床)。)

しかしながら、国民の素朴な疑問は、新型コロナ渦が始まってから1年7か月、どうしてその間に「新型コロナに対応できる、逼迫が起こらないような医療提供体制」を構築することできなかったのか?ということです。世界的に見れば、人口当たりの病床数が世界一で、かつ、新型コロナの感染者・重症者が相対的にかなり少ない日本で、なぜ、依然として医療が逼迫してしまうのか?

「一般病床の空きベッド数は約30万床あるが、医療機関の役割分担が不十分で、コロナ病床への転用が進んでいない。」「民間病院が8割を占め、行政の指示が効かない」「中小病院が多く、設備・人員不足や経営リスク等で、コロナ患者を受け入れていない。」といった声も聞こえてきます。では一体、どうすればよいのでしょうか?

 新型コロナの病床を大幅に増やした英国や米国について、各国関係者へのヒアリングやわたくしの米国留学時の制度研究などから考察をしてみると、以下のようなことが見えてきます。

・規模の大きな病院が多く、数百床といった単位で、コロナ病床に転換をすることが可能であった。

・新型コロナ流行時の感染者・重症者・死者の数が極めて多く、「一刻も早く、この状況をなんとかしなくてはという、医療提供体制を確保することへの社会の圧力」が非常に大きかった。

・医療機関には、病院と診療所という区別がありますが、欧米では、元々制度的に、病院はかかりつけ医(診療所の医師)の紹介によってのみ受診できるものであり、日本のように紹介無しで病院を受診する、ということがありません。病院は「入院や高度な治療を要する患者のみが受診するところ」といった形で、「医療の機能分化」がきっちりとなされています。(そもそも、「誰もが、行きたいときに、行きたい病院・診療所を自由に受診できる」という日本のようなシステムは極めて珍しく、これについては、限られた医療資源の適切な活用という観点からは問題があると、以前より思っています。)

・英国は、NHS(National Health Service)という国営の医療システムを取っており、病院の9割以上が公的病院で国の管轄下にあり、トップダウンで動かせたことが大きい。2020年3月からのロックダウン時に、短期間で国内の医療体制を新型コロナ感染症用にシフトしました。新型コロナ用の病床・ICUの増床、さらに「ナイチンゲール病院」という専用仮設病院が全国に設けられました。

・米国では、連邦制の下で各州政府の権限が強く、各州の実情に応じて、州知事などが強力な権限を行使した。2020年3月、米国ニューヨーク州のクオモ知事は、州内の病院に病床増床の命令を発するとともに、大型展示場に1000床など、州内8か所に臨時病院を設置、米海軍の病院船の使用も政府に要請し、3週間で9万床を確保したとされています。

…こうしたことから、見えてくることは、たくさんあります。「制度が違うから、日本ではできない」ではなく、「現状、できることは何か」、そして、「制度やシステムに問題があるのなら、これを機に、制度・システムそのものを変革していく」と考えるべきです。

できない理由をいくら並べ立てていても、命は救えません。「国民を守るために、どうしたらできるようになるか」を考えない国家や組織に、未来はありません。

長野県の松本医療圏では、重症度別の受け入れ先やコロナ以外の患者を担当する病院を明確にし、地域全体で通常診療への影響を少なくするように努めました。2020年4月に市が、市立病院のコロナ病床を大幅に増やす方針を決定し、市立病院が一般病床を転換し、最大37床を確保、市立病院では対応が困難な重症患者は、国立病院や大学病院などが対応し、民間病院は透析中の患者や中等症患者を受け入れるなどの分担をしています。

東京都墨田区は、地域の医療機関に対して、国の退院基準を満たした患者からの感染の可能性は極めて低いことを周知した上で、回復患者の転院を受け入れる医療機関には1000万円の補助金を支払うことにしました。そして、区から患者の転院を依頼された場合は、原則すべてを受け入れる、という区独自のルールで運用を始めました。

もちろん、どの国・地域にも問題はあり、完璧ということはないでしょう。しかし、良い点は参考にして、どんどん取り入れて、そして、国民の生命と安心を守るという、最も重要な使命を果たすために、政治や行政ができること・なすべきことは、たくさんあるはずです。

◇  ◇

「これまでで最大の感染者数」という報道が日々なされます。

国民が知りたいのは、求めているのは、では、一体どうすればよいのか?なにがどれくらい本当にマズいのか?政治や行政はそのためになにをしてくれているのか?という、素朴かつ率直な疑問への真摯な回答と行動です。

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