一体感なき世論を引きずったまま、17日間に渡って熱戦を繰り広げた東京五輪(7月23日~8月8日)。過去最多のメダルを獲得した日本選手団を始め、トップアスリートのパフォーマンスは、緊急事態宣言下の東京五輪への賛否に影響したのでしょうか。選手たちの活躍に五輪の意義を見出しつつも、政府のコロナ禍対応には厳しい評価という心境が、社会心理学者のパネル調査から見えてきました。そういえば「五輪で日本選手が頑張っていることは、われわれにとっても大きな力になる」とおっしゃった自民党の政治家、いましたよね。
五輪開催「反対」は最大23ポイント減
大阪大学大学院人間科学研究科の三浦麻子教授、香港城市大学メディア・コミュニケーション学部の小林哲郎准教授が、一定の期間を置いて同じ人に同じ質問をするパネル調査で、開催の約2カ月前の5/26~29▽6/10~12▽6/17~18▽6/23~25▽6/30~7/1▽7/7~8▽開催直前の7/21~22▽期間中の7/28~29▽8/4~5▽閉会直後の8/10~11-の計10回、WEBで実施しました。五輪の開催賛否のほか、回によって開催のプラスマイナス、意義、開催への貢献評価、コロナ禍への政府の評価、内閣支持率なども質問しました。1000人から始まった回答者は第10回調査時点でも789人が引き続いて答えており、関心の高さがうかがえました。
東京五輪の開催賛否は7択で問い、「非常に」「かなり」「やや」を合わせた反対は開催直前(7月21~22日調査)で63.0%でしたが、以降は減り、開催後は49.7%。一方、同様の賛成は期間中に約10ポイント増え、開催後は31.7%でした。五輪開催のプラスマイナスの質問でも同様傾向でした。
「世界最高の技と力を見るのは楽しかった」
三浦教授らは、開催直前と閉会直後で、「五輪開催の賛成・中立・反対」と「五輪が日本にとってプラス・マイナス・わからない」の回答が異なる人を、「五輪開催を経て態度が変容した回答者」だとみなして、次のような分析をしました。五輪への態度が軟化した、つまり「反対→中立・賛成」「中立→賛成」/「マイナス→わからない・プラス」「わからない→プラス」に変容した人たちは、それぞれ回答者全体の22.5%/32.6%を占めました。
こうした人たちと、開催直前から「賛成/プラス」の態度を変えなかった人たち(それぞれ回答者全体の20.6%/16.9%)との類似点を比較すると、五輪の意義への回答で、「世界最高の技と力を見るのは楽しかった」「世界の民族との交流が促進できた」への賛成が非常に多いことでした。様々な競技の様子を見聞きし、五輪本来の大義を強く感じたことが、五輪開催に肯定的な態度につながったと考えられます。
政府関係者「貢献していない」5割、「コロナ対応できず」8割
期間に入って以降、競技関係者(選手やコーチなど)、運営関係者(IOC、JOCなど)、政府関係者(首相、五輪相など)を対象に、五輪運営評価を5択(まったく/あまり貢献していない、どちらともいえない、やや/非常に貢献している)で尋ねたところ、競技関係者には毎回80%超が「貢献している」と回答しました。一方、政府関係者に対しては「貢献している」は最も高い回で31.6%。「貢献していない」は調査のたびに増え、第10回時は47.2%でした。
新型コロナウイルスの感染拡大については5段階(まったく/あまり気がかりでない、どちらともいえない、やや/非常に気がかりだ)で質問。「気がかりだ」は各回とも90%を超えました。コロナ禍への政府の対応評価(5段階、まったく/あまり対応できていない、どちらともいえない、ある程度/とてもよく対応できている)についても、「対応できていない」は77%超。大会期間中の新型コロナウイルスの新規感染者は東京都内で約5万4千人、国内で17万人。特に爆発的に増えた都内では医療ひっ迫が深刻になっています。三浦教授は「内閣支持率(どちらかといえば支持している+支持しているの合計)は全体では20%強でしたが、五輪に対して「賛成/プラス」と回答している人でも、39.4%/39.2%でした。コロナ禍への懸念は相変わらず強く、政府には厳しい目線が向けられています」と話します。
五輪後に各メディアが実施した世論調査の内閣支持率を見ても、東京五輪開催や日本選手団の活躍が政権浮揚につながったとはいえないようです。「もともと内閣支持率は下がり目でしたし、感染拡大の状況を踏まえると下がらないのはおかしい。ただ、野党はもちろん与党内にも有力な代替案がない状況ですから、政権側にまだ大きな危機感はないように思います」(三浦教授)
東京五輪をめぐる社会心理はこれからどう推移するのか、パネル調査は次回、総選挙時に実施予定です。