友人、同僚との飲み会や親族が集まっての新年会など、会食の機会が増える年末年始。新型コロナウイルスの感染リスクを抑えようと、感染症の専門家や政府などが推奨しているのが「マスク会食」だ。その光景を飲食店で目にする機会は少なく、効果を疑う声もある。一方で、このコロナ禍で、私たちが胸を張って会食を楽しむ数少ない方法の一つでもある。記者が実際に試し、課題と対策を探った。
「ぜひ『静かなマスク会食』をお願いしたい」
11月19日午前。いつもの冷静な口調で、菅義偉首相は国民に呼び掛けた。その直後から、短文投稿サイト「ツイッター」がざわめいた。「マスク会食って何?」に始まり、「そんなことできるの?」と疑問視する声が相次いだ。
神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」にも、女性から「1日使ったマスクには多数の飛沫が付着している。会食中に触るのはかえって不衛生では?」との投稿があった。
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政府に先行し、8月ごろからマスク会食を提唱してきた神奈川県では、独自に“作法”を解説する動画を公開。それによると、(1)着席後、マスクを新品に交換(2)手指を消毒(3)飲食する度に片耳のゴムだけを持って付け外しする-という手順を踏むことで、清潔さを保つことができるという。
だが、「本当にできるの?」という疑問は残る。本社の記者3人の協力を得て実践した。舞台は神戸市内の個室焼き肉店。まず、作法通りマスクを取り換える。「乾杯」とグラスを合わせた後はマスクを外し、静かにビールを流し込む。
牛タンをほおばり、思わず「おいしい」と言いそうになるが、マスクを着け直すまで我慢する。マスクを外し、何か食べ(飲み)、またマスクを着ける-という作業は急いでも約10秒。中途半端な沈黙に、話の腰が折れかけることもしばしばだ。
数えたところ、マスクの着脱は2時間で約65回に及んだ。やはり、普段の飲み会より口数は減る。「マスクの中が汚れる」という指摘もあった。確かに、唇に付いた油や調味料がマスク内側に移る。
だが、「こんなに面倒なら、会食しない方がましだ」とは思わなかった。他の参加記者も「最初は戸惑ったが、途中で慣れた」「もどかしさはあるが、オンライン飲み会よりは楽しい」と話した。
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神戸市看護大学(同市西区)の岩本里織教授(公衆衛生看護学)によると、クラスター(感染者集団)が発生しやすいのは職場の控室など、気が緩み、マスクを外しがちな場所が多いという。「会食もその一つ。食事中もマスクをすれば、効果は大きい」という。
濃厚接触者の定義は「感染可能期間に1メートル以内で、マスクなしで15分以上会話した人」とされる。岩本教授は「食事中もきちんとマスクを着けた場合、同席者の陽性発覚後もPCR検査を受ける必要がなくなる可能性がある」と指摘する。
マスクを着席後に交換するのは「理想的だが、ややハードルが高い」と話し、「1枚しかない場合は、外気に触れる外側に触らないように着け外しを」と呼び掛ける。
■衛生的手持ちマスク 神戸の飲食店、客にプレゼント
マスク会食を勧める動きは、飲食店側からも出始めている。
「栞プロジェクト」(神戸市灘区)は11月中旬から、市内で運営するイタリア料理店など3店舗で、5人以上のグループで来店する客に手持ちのテーブルマスクをプレゼントしている。
テーブルマスクは嵯峨美術大学の佐々木正子学長が考案し、型紙や作り方を公開しているもの。市販の不織布マスクを書類とじ器で固定し、顔のカーブに合わせて中央を折り曲げられるのが特徴。話す際に口元を覆う。
「口周りにソースが付着した状態でマスクを着脱するのは衛生的ではない」と同社。利用客からは「安心して話せる」と好評という。「自店でクラスター(感染者集団)を発生させたくないのはどこも同じ。他の店にも広がれば、感染の抑止につながる」と話す。(伊田雄馬)
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