「キラリ レイン ヨリ」
4月上旬、新型コロナウイルス感染防止のために休業していた兵庫県の姫路市内の猫カフェ宛てに、寄付金が振り込まれた。オーナーの八木絢子さん(41)=同市=は、懐かしい2匹の名前に驚く。運営を続けられるかどうかの不安もつかの間忘れて、くすっと笑った。「猫の恩返しだ」
まだ猫カフェという業態が珍しかった2007年、親戚が神戸市にオープンした店舗で店長に就いた八木さん。高価な品種もいたが、プライベートでは保護施設や団体から引き取った猫を飼っていたので、店でも保護猫を飼育した。譲渡、返還がかなわず殺処分された猫は減少傾向にあるものの、2018年度も全国で約3万頭。救われない命の多さを、このときに知った。
2011年秋に独立。自宅のある姫路市内で保護、譲渡に主眼を置いた「cat cafe(キャットカフェ) ねこびやか」を開いた。市保健所動物管理センターに収容された殺処分予定の猫を引き取って医療ケアを施し、店で飼育しながら飼い主を募る。2013年、2店舗に再編。今春までに、計321匹が巣立った。
しかし、コロナ禍で状況は一変。客の安全はもちろん、もし八木さんや2人のスタッフが感染すると、店にいる35匹は再び行き場を失う。緊急事態宣言を待たず、4月初旬に営業を止めた。
収入が断たれても、家賃同様に節約できないのが、猫の医療費。健康な猫ばかりではなく、心筋症の治療や目の手術などで動物病院へ通った。
店に置く募金箱の代わりにブログで寄付を募ると、数日後に「キラリ」と「レイン」の連名で入金があった。八木さんが保護し、かつて“スタッフ”として在籍していた雄猫2匹だ。「ふたりから先輩後輩のみなさんへ、という気持ちです」。飼い主の気遣いと、遊び心が胸に染みた。店のブログでこの出来事を紹介すると、「卒業」していった猫の名前で続々と寄付が集まった。
「猫を助けてたつもりが、実は猫に助けられてたってことですかね」と八木さん。支援の輪はさらに広がる。5月中旬、インターネットで資金を募るクラウドファンディングを始めると、目標の2倍をはるかに超える約280万円が集まった。
寄付のおかげで、同下旬から保健所にいる猫の引き取りを再開できた。6月中旬には店も開ける予定で準備を進める。八木さんは「支援に感謝して、この店を続ける。そして、1匹でも多くの猫のくらしを守りたい」と話した。
(まいどなニュース/神戸新聞・井上 太郎)