検察官の定年延長をめぐって渦中にあった東京高検の黒川弘務検事長が、緊急事態宣言が出ている5月に新聞記者らと賭けマージャンをしていたとする週刊文春(電子版)の報道を認めて辞意を示したことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は21日、当サイトの取材に対し、その捜査方法を解説。黒川氏への処分は「訓告」という、想定より軽い扱いとなり、懲戒免職ではなく辞任のみで〝幕引き〟となる流れとなったが、小川氏は「『身内に甘い』と世間が許さない」として、厳格な捜査をすべきと訴えた。
記事によると、黒川氏は5月1日夜から2日未明にかけて、都内にある新聞記者の自宅マンションを訪ね、この記者と同じ社の記者、他社の社員と卓を囲んだという。黒川氏は同月13日夜もこの記者宅を訪れ、記者が用意したハイヤーで帰宅したという。賭けマージャンは賭博罪に当たり、また、緊急事態宣言が出ている中で「3密」状態の場に「不要不急」の外出を繰り返していたことが明らかになった。黒川氏は法務省の聞き取り調査に対して報道内容を認めた。
小川氏は「過去に有名人の漫画家が賭けマージャンで現行犯逮捕されたことがあり、一般的に『賭けマージャンは現行犯でなければ捕まらない』と思っている人が多いようですが、現行犯でなくても立件はできます」と指摘。「今回の場合ですと、『実際に金を賭けてやった』という裏付けが重要になります」と、本人たちや周辺の証言、状況証拠を調べていく必要性を説いた。
小川氏は「まず一つは『いつ、どこで、誰が誰とやったか』ということが焦点となります。現場となったマンションの防犯カメラ等でマージャンをやっていた者の出入りを確認すること。家族がいてお茶など出していれば、当時の状況を聞き取りします。また、黒川氏は記者が用意したハイヤーを利用したと報道されていますので、ハイヤーの当日の運行表を調べて、どこからどこに移動したか、誰を乗せたか、その足取りを確認します。また当日だけか、他の日も同様に同じ人物を乗せていないか等の裏付けを取る必要があります」と説明した。
さらに、マージャンならではの捜査もある。小川氏は「誰が何点勝って、負けたかを記載した『点数表』等がないか、レートがいくらだったか。例えば『点100円』だった…なども調べます。また、スケジュール表やメモ帳も調べ、何月何日に黒川氏とマージャンをやっていたかを調べる。例えば『黒М 21-22 -20』と書かれていれば、『黒川さんとマージャン、時間帯、結果』。こうした記録が残っていれば押収されます。他の日にも頻繁にやっているかを調べます」と指摘した。
では、法的にはどのような扱いになるのだろうか。小川氏は「単純賭博罪ですので、懲役刑はなく罰金刑になると思います」としつつ、「問題は誰が取り調べをするか。検察だと、検察官同士の身内、しかも部下になり、警察ですと警視庁組対四課。賭博事件の担当です」と解説した。
黒川氏は63歳の誕生日を迎える今年2月で定年予定だったが、政権は1月末に同氏の定年延長を閣議決定していた。21日夕方の会見で、森法相は黒川氏を「訓告」の処分とし、同氏から辞表が提出されたことを明らかにした。22日の閣議で承認される見込み。今回の報道が事実だったことで、懲戒免職の可能性も指摘されたが、訓告は戒告よりも軽い扱いで、退職金も出ることになる。
小川氏は「現職の犯罪となりますので、懲戒処分になる可能性が考えられた。懲戒処分は、免職、停職、減給、戒告の4つですから、訓戒(訓告)は『懲戒処分ではない処分』です」と、その軽さを指摘した。
その上で、小川氏は「コロナ禍で日本国中が自粛をし、雀荘も閉店している中、そういう立場の方が緊急事態宣言中にそうした行為をやっていたことには本当にびっくりします。賭ける賭けないは別にしても、4人が対面して密な状態となり、マージャンをやっている。一般的にいって思考がずれていると感じました」と苦言を呈し、「一緒にマージャンをやっていた新聞記者も含め、しっかりした取り調べをしなければ『身内に甘い』と世間が許さない。捜査をしないわけにはいかない」と提言した。