「あれ!?玄関が宙に浮いてるー!」。エントランスから、まずびっくり。もとの入口の下に「ガラス・リボン」と呼ばれる横に長いガラスのファサードがあり、ここが新しい入口になっている。ファサードの上にはもとの玄関。その前面に傾斜のある空間が広がり、コンサート会場などにも活用される。エントランス前の広場「京セラスクエア」の階段席から、見上げる形になるので、舞台にも使える。納得の落としどころだ。
「本館」の展示室の1階の床は、改修のた一度はがされ、復元されている。新築の感じがあまりせず、落ち着きのあるのは、もともとあった床材となじむように、新たな部材にもエイジングを施すなどの手間がかけられているから。その職人魂、隅々まで味わいたい。
現代アートの展示に対応する新館「東山キューブ」。本館から繋がるロビーは、日本庭園を散歩しているかのような気分になれる天井までのガラス張りが、超開放的。「もとあった庭園を生かして、東山の借景を楽しんでいただけるように」と、青木淳館長自ら案内する。平安時代から愛でられていた岡崎の景観、近代の作庭と、現代のクリエーションの融合。この景色には、「像を重ねてゆく美術館」というリニューアルのコンセプトが表現されている。
京都市美術館を昔からよく知る人が「こんなのあったっけ?」と驚きそうなのが、非公開だったシンメトリーなふたつの空間を生かしたスペースだ。どちらも機械置き場として今までは封鎖されていた場所だった。「本館」北回廊の既存の中庭にバルコニーを設け、ガラスの屋根をかけて室内化した「光の広間」は、もともと外壁だったレンガ造りの壁がシックで、ヨーロッパの街に迷い込んだような趣がある。
「本館」南回廊の中庭は、屋根のないオープンエアな「天の中庭」に。コレクションルームの一部として、屋外彫刻が配置されている。京都市美術館の正面脇を飾っていた清水九兵衛の赤い美術作品と再会。「こんなところにいた!」と二度びっくり。
エントランスのファサード脇に出現した、ガラスの三角形の建造物。その地下に位置するのが、新たな展示スペース「ザ・トライアングル」で、新進作家の発信の場。透明度の高いガラスを使用しており、透け感と写り込みが美しく、建物そのものもまるでアート作品のようだ。
近代の建築遺産も美しく保存されている。非公開だった貴賓室には、洋室のなかに御殿建築にあるような格天井、という当時の和洋折衷の建築をもっとも格調高く表している例だろう。床材のタイルや大理石、館内の照明具などもいまでは製作できないような貴重なものばかり。