海外の風習であっても、保育園児のピアスは駄目なの? 神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に、西アフリカ出身の男性と国際結婚し、1歳の双子の女児を育てる兵庫県西宮市の女性(32)からそんな投稿が寄せられた。夫の母国では、女の子が生まれるとすぐにピアスをつけるという文化的な習慣がある。だが、入園を希望した認可保育園は安全確保を理由に「外さなければ通えない」と受け入れに条件を付けた。双方の主張、立場を取材した。(鈴木久仁子)
双子の娘は、父親と同じイスラム教徒(ムスリム)。女性は仕事に就くために今年4月から2人を保育園に預けることにしたが、入園式目前に園側から呼び出しを受けた。要件は「確認書」への押印。提示されたプリントには計6項目のチェック事項が並び、その一つにこうあった。
「ピアスそのほか装飾品は園外ではずし登園します。(中略)園内ではつけず、子どもが手に持ったり、他児が目につくようにはしません」
他にも、男女混在で着替えやシャワーをすること、豚由来の食べ物や製品に触れる場合もあること-などが記されていた。いずれもムスリムの習慣には反するが、最後には「保育については園の方針に従います」とあり、西宮市長あてに両親の押印を求めていた。
女性によると、夫の母国では、女の子は生後間もないうちにピアスをつける。「生きる証し」や「魔よけ」などの意味があるとされ、親の愛情を表現する大事な慣例という。
女性は園側に「全てこちらの習慣に合わせてほしいと望んでいるわけではない。ただ、ピアスには特別な意味があり、安全性にも問題はない」と訴えたが、受け入れられなかった。
結局、入園は辞退し、今は別の園に通う。そこでは給食の豚肉を取り除くなど一定の配慮はあるが、ピアスに関してはやはり不可。夫は「(ピアスの)穴が開いたままだと、子どもに良くないことが起きるのでは」と悲嘆しているという。
これに対し、西宮市保育事業課は「あくまで子どもの安全が第一。集団保育の中で、小さく、とがったピアスを他の園児が飲み込んでしまっては困る」と説明。海外との文化の違いについては「今後もできる範囲で対応したい」とする。
◇
他の自治体ではどうか。取材を広げてみると、ピアスに関しては加古川市で20年ほど前につけたまま通った例はあったが、それ以外に同様の事例は確認できなかった。
今後、こうしたケースがあった場合の対応については、各担当者とも“安全”と“異文化理解”の間で揺れる。「施設の総合的判断が優先される。両者に配慮する方法を個々に考えることになる」(明石市)との意見もあれば、「安全性に問題がなければ、人権の問題に踏み込むことになる。柔軟な対応が求められるのでは」(姫路市)との見方もあった。
【多言語センターFACIL(神戸市長田区)理事長の吉富志津代・名古屋外国語大教授の話】日本ではルールは絶対という思い込みがある。「ここは日本だから、集団だから守れ」と。協調していく上では大切だが、それが一人一人の多様な考えを公平に聞いてできた、心のこもったルールかどうかが肝心。多数者だけに有利で、それを理由に誰かを排除していないか。常に考え直すプロセスを持つことが、互いに理解し合える成熟した共生社会につながる。
◇ ◇
神戸新聞社は、読者の投稿や情報提供を基に取材を進める双方向型報道「スクープラボ」を始めました。身近な疑問や困りごとから、自治体や企業の不正告発まで、あなたの「調べてほしい」ことをお寄せください。LINEで友だち登録(無料)した後に投稿できます。皆さんと一緒に「スクープ」を生み出す場。ご参加をお待ちしています。
(神戸新聞「スクープラボ」から)
→神戸新聞NEXTのウエブサイトは
https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/scooplabo/201910/0012767772.shtml
▼どなどな探検隊 パートナー協定について
まいどなニュースはオンデマンド調査報道の充実に向けて、北海道新聞、岩手日報、河北新報、東京新聞、京都新聞、中国新聞、神戸新聞、テレビ西日本、エフエム福岡、琉球新報と連携協定を結んでいます。「どなどな探検隊」に寄せられる調査依頼や内部告発のうち、取材対象地域外に関するものなどは各社と情報を共有。北海道新聞の「みんなで探る ぶんぶん特報班」岩手日報の「特命記者−あなたの疑問、徹底解明−」、河北新報の「読者とともに 特別報道室」、東京新聞の「ニュースあなた発」、京都新聞の「読者に応える」、神戸新聞の「スクープラボ」、中国新聞の「こちら編集局です あなたの声から」、琉球新報の「りゅうちゃんねる~あなたの疑問に応えます」の記事を相互交換し、新聞や自社のウェブサイトに随時掲載します。