米国株の下げが加速している。7月は上値を試す展開で、ダウ30種工業株平均もナスダック総合株価指数も連日の過去最高値だったが情勢は一変。8月に入るとダウ平均が1000ドル下げるのに3日もかからなかった。急速な相場の下落で市場心理が萎縮しかねない状況だ。これまで米国株を支えてきた「好景気での利下げ」「米中貿易協議での合意」という景気を加速する2つの「夢」から目を覚まし、足元の企業収益に視線が向かい始めたようだ。
「正常化とも言えますね」と話すのは、投資家向けに投資情報を提供するブーケ・ド・フルーレットの馬渕治好代表だ。利下げ期待と米中合意期待の2つの材料を手がかりに一方的に買い進むのにはもともと無理がある、と馬渕氏はかねて指摘していた。したがって足元の米国株の急落は、本来の米国企業の利益水準に見合ったところまで押し戻される動きと読む。普通に考えれば難しいことなのに「期待」だけで買い進んだ分が、はがれ落ちたわけだ。
米国では鉱工業生産こそピークアウトしたが、依然として雇用は堅調。失業率は過去最低といえるぐらいの低水準。小売売上高からみて個人消費も順調に推移している。利下げしろとやかましいトランプ大統領にお付き合いしたとしても、金融政策を決める連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が「長期にわたる一連の利下げの始まりではない」と釘を刺すのは、状況からみて常識的と言える。一方で、米中貿易摩擦にしても、もともと両者の主張に隔たりが大きく、簡単な合意は難しいと考えるのが普通だ。
7月30〜31日に開いたFRBが金融政策を決める会議「連邦公開市場委員会(FOMC)」で0.25%の利下げを実施した。だが、パウエル議長が釘を刺したことで、継続的な利下げがあり得る環境ではないことや、このところ米中貿易協議で進展はほぼみられないどころか、追加の制裁関税などによって両者の溝がより深まったとすら言えるなど諸々の投資環境を、改めて冷静に見つめ直すきっかけになった可能性が高い。パウエル氏は意図にかかわらず「好景気での利下げ」「米中貿易協議での合意」と2つの夢から株式相場を現実に引き戻したのだ。