実はこれ、「パブリック・アート」と称される、広場や道路など公共的な空間に設置される芸術作品だった。都営地下鉄を運営する東京都交通局によると、2000年創業の大江戸線26駅に展示され、設置場所やその周辺を「ゆとりの空間」とするコンセプトだという。同局から提供された資料には「アットランダムな配列の天井蛍光灯。無造作な配置が地上の喧騒を表現する」と記されていた。
このほかの作品は、表示付きで芸術作品と分かるものが多いが、清澄白河駅の蛍光灯はその場に表示もなく、ゆがんだ日常風景として突然出現するため、乗降客が身をもって驚きを体験できるハプニング性がある。
同じ「照明アート」でいえば、大江戸線・飯田橋駅の階段とエスカレーター上部には緑色のパイプにはめ込まれたライトがクモの巣状に張り巡らされている。だが、こちらはダイナミックなパフォーマンス性があるので、何らかの作品だと想定できる。そういう意味で、“地味さ”と“さりげなさ”故に、何だか分からない想定外の不安さを醸し出している清澄白河駅の方が話題になったのだろう。
時間に追われていたり、考え事をしながら歩いていると見過ごしがちだが、移動の手段として利用する交通機関でも、たまに遊び心を持って、ふらふらと歩く余裕があれば“異界”への入口が待っているかもしれない。