東京地下鉄ミステリー「駅名についた青山一丁目という住所は存在しない」「本郷三丁目駅があるのは本郷2丁目」

糸川 憬 糸川 憬

駅名に「〜丁目」と付いているのを、よく見かけませんか?

「見かける!」と思ったあなたは東京近郊に、「そうかな?」と思ったあなたはそれ以外の地域にお住まいの方かもしれません。東京には、都営・メトロ合わせて地下鉄の路線が13あり、そのうちの8の駅で駅名に「〜丁目」が使われているのです。ちなみに、大阪メトロは全9路線のうち6駅に「〜丁目」駅がありますが、神戸市営地下鉄や福岡市地下鉄には1駅もありません。

では、そんな東京にある「〜丁目」駅のうち、いちばん多いのは何丁目でしょうか。ヒントは、東京メトロ丸ノ内線に複数あること。丸ノ内線にある「丁目」が付く駅名は、すべて同じ「〜丁目」です。

…答えは、「三丁目」。「新宿三丁目」「本郷三丁目」「四谷三丁目」、そして都営三田線の「志村三丁目」の4駅です。8ある「丁目」駅のうち、半分を「三丁目」が占めていることになります。なお、次点は「一丁目」で、「青山一丁目」「銀座一丁目」「六本木一丁目」の3駅です。そして残りが「西新宿五丁目」となっています。

〜丁目にない駅もある!?

ちなみに「〜丁目」は、駅の所在地を表しているものとばかり思っていたのですが、調べてみると「〜丁目」にない駅もあることが分かりました。

例えば、「本郷三丁目」駅。都営地下鉄大江戸線と東京メトロ丸ノ内線の2線が乗り入れていますが、いずれも所在地は「本郷2丁目」となっています。

また、都営地下鉄大江戸線・東京メトロ半蔵門線・同銀座線の3線が乗り入れている「青山一丁目」駅にいたっては、そもそも「青山」という住所がないことも分かりました。大江戸線の駅は北青山1丁目、東京メトロの駅は南青山1丁目に所在しているのです。

駅の外に出てみると、交番には「青山一丁目交番」、交差点にも「青山一丁目」とあり、一帯が「青山一丁目」と認識されていることがうかがえます。

東京メトロ広報部でも分からない謎

なぜ、駅の名前が地図上に存在しない「青山一丁目」となったのでしょうか。まずは東京メトロ広報部広報課にお話をうかがいました。

ところが、東京メトロの建設史にも記載がなかったとのことで、再度調査いただくことに。地下鉄博物館等に問い合わせていただいたり、東京メトロ・青山一丁目駅開業当時の資料も確認していただいたりしたのですが、正式な由来については確認できないとのことでした。

しかし、ここで大ヒントをいただきました。それは、東京市電(現・都電)に「青山一丁目」という電停があったということです。

それならばと、都電を所有・運営している東京都交通局・総務部広報担当へお話をうかがいました。現在の都営地下鉄大江戸線「青山一丁目」駅は、既存の路線と接続するため同じ駅名になったとのことでしたが、東京市電時代の「青山一丁目」電停とのつながりについては調査が必要とのご回答。

青山一丁目の謎もここまでか……、とあきらめかけたとき、交差点の名前も「青山一丁目」だったことが思い出されました。もしかして、電停の名前が決まるより前に、交差点の名前が決まっていたのでは? そこで、港区に問い合わせたところ、港区総務課区史編さん担当から回答をいただくことができました。

 現在と同じ呼称になったのは明治37年

まずは、町名について。現在、青山一丁目駅・青山一丁目交差点付近は「北青山」「南青山」という町名ですが、これまでにも単独で「青山」という町名はなかったのだそうです。1941(昭和16)年発行の「赤坂区史」にその記録が残されおり、確かに「青山北町」「青山南町」などの町名が確認できます。次に、交差点の名称についてですが、現在の青山一丁目交差点を「交差点」として命名した経緯や時期について、港区では不明とのことでした。

そのため、今度は道路管理者である国土交通省関東地方整備局にも問い合わせました。しかし、青山一丁目駅が設置されている国道246号を国土交通省が管理することになったのは、1965(昭和40)年5月と比較的最近だということが分かりました。ただ一般的には、交差点が新しく設置された場合、所轄警察署と道路管理者が協議し、住居表示や近隣の公共施設、地域の意見を参考にしながら決めることが多いのだそう。

1903(明治36)年に東京電気鉄道が路面電車を営業し始めたのち、1906(明治39)年に合併し「東京鉄道」が設立されるまで、東京市を走る路面電車は東京電車鉄道・東京市街鉄道・東京電気鉄道の3社によって運営されていました。「青山一丁目」電停はそのうち、東京市街鉄道の電停として1904(明治37)年に開業しています。

ここからは推測になりますが、1904(明治37)年当時、「青山北町」「青山南町」の間にある道(現在の青山通り)を路面電車が通ることになり、どちらの住民にも分かりやすく配慮した上で、「青山一丁目」という名前が電停や交差点に付けられたのではないでしょうか。

「〜丁目」駅が多くある東京の鉄道駅。みなさんがお住まいの地域はいかがでしょうか。何気なく通り過ぎるあの「〜丁目」駅も、実はその名の通りの場所にあるとは限らないかもしれません。ぜひ、住居表示などと併せて確かめてみてくださいね。

【参考資料】
▽東京都都市整備局/東京の都市づくりのあゆみ「馬車鉄道から路面電車へ」
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/keikaku_chousa_singikai/pdf/tokyotoshizukuri/1_02.pdf,(参照 2023年1月19日)

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