同志社大経済学部(京都市上京区)の学生たちが、老舗京菓子店「老松」(上京区)の全面協力を得て商品企画から開発、販売までを行うプロジェクトに取り組んだ。
何度も案をブラッシュアップして、完成させたのは「お汁粉(しるこ)」。
北野天満宮(上京区)の「天神市」が立つ11月25日の1日だけ、近くの老松北野店で限定300個を販売した。
流行に敏感な学生が考えたこのお汁粉。老舗の格式や味はそのままに、斬新なアイデアが盛り込まれている。
背景にある思いとは、どんなものなのだろうか。
プロジェクトを主催するのは、同大学経済学部のOB・OGでつくる「同経会」。後輩の学生たちに社会とのつながりを持ってもらうねらいで、京都の企業に協力を仰いでいる。
初めて実施した昨年度は京都の人気洋菓子店「マールブランシュ」を展開するロマンライフ(山科区)や香老舗松栄堂(中京区)など4社と協働。プロジェクトに参画した学生たちは企業の担当者から話を聞き、課題解決に向けた提案などを行った。
今年度は「京都を知って、和菓子で実践」をテーマに老松とのコラボが決定。経済学部の有志の1~3年生32人は、勉強会で京菓子の知識や関心を深め、8月下旬から商品開発に向けた取り組みを本格化させた。
学生は六つの班に分かれてアイデアを出し合った。老松の担当者からアドバイスを受けて案を何度も練り直した。もなかやどら焼きも候補に挙がったが、最終的に秋から冬にかけて需要が高まり、片手に収まるお汁粉を1日限定の門前菓子として提供することになった。
北海道産の小豆を使用するお汁粉は、老舗の格式や味をしっかりと守りつつ、学生のみずみずしいアイデアを詰め込んだ。
北野天満宮にゆかりの深い梅と紅葉をかたどった3種類の和三盆の干菓子から、二つ選んでもらってお汁粉の中に入れる。
プロジェクトリーダーで2年の岡上楓果さん(19)は「見た目の華やかさにこだわった。職人さんと打ち合わせして、くずでお汁粉にとろみをつけることで和三盆が浮き、写真映えする。溶けると金箔(きんぱく)がお汁粉の上に浮いてくるものもあります」と仕掛けを語る。
コラボ商品は「つながり」をテーマに据えた。干菓子を二つ選んでもらうのも、お客さんとの会話のきっかけをつくりたいとの思いから。また、店頭に立つ学生がお汁粉の容器カバーにその場でメッセージを書き入れ、注文した人へ感謝の思いを伝える。
学生たちは広報活動にも力を注ぎ、インスタグラムで老松の担当者へのインタビューやプロジェクトの意義を短い動画にまとめ、発信している。
価格は500円に設定。25日の販売後は客層や売れ筋などを分析し、今後の学びや次年度以降のプロジェクトに生かす。
リーダーの岡上さんは、大学生活の中で主体的な学びを経験したいと思い、同経会プロジェクトに参加した。のれんを守る老舗の神髄に触れ、「一から商品を作ることの大変さ、京都の歴史文化を継いでいくことの意義を感じられた。プロジェクトを通して成長を実感できた」と力を込める。
老松取締役の太田佑馬さん(34)は「学生さんは僕たちにはない発想があり、担当した職人の成長にもつながった。商品にどう付加価値やストーリーを付けていくか。失敗しながらでも学生さんがおのおの考え、実際に販売まですることで多くの学びが得られるはず」と成果を口にする。
商品は「甘い」けれど、「甘くはない」社会の現実を味わう本気のプロジェクト。
主催した同経会執行理事の沼井哲男さんは「単に『楽しかっただけ』で終わってはプロジェクトの意味をなさない。社会において実践し、苦労することで得られる『楽しさ』を学生たちには感じてもらいたい」と意義を語った。