鶴瓶12番目の弟子が紡ぐノンフィクション落語が話題 毎日、娘に弁当を作った父親を直接取材

実話にこだわった新ジャンル落語 笑福亭鉄瓶の噺家人生<前編>

佐野 華英 佐野 華英

 演芸、エンターテインメントの世界に大変容が起こったコロナ禍、伝統芸能である落語に新たな試みを取り入れ、挑戦を続ける落語家がいる。笑福亭鉄瓶・44歳。笑福亭鶴瓶12番目の弟子として入門し21年、次世代上方落語のリーダー として実績を重ねてきた彼が、落語の題材として心惹かれたのは「市井の人々」だった。鉄瓶自ら「ノンフィクション落語」と名づけたこのテーマは、彼の目に留まった「普通の人の稀有な物語」を自ら取材、創作するというスタイルだ。日々、進化を続ける鉄瓶の、落語への思いを訊いた(前編・後編の前編)。

一一「ノンフィクション落語」というジャンルは、どのようなきっかけで出来あがったのでしょうか。

笑福亭鉄瓶(以下、鉄瓶) 2021年に初披露した「生きた先に」が第1作となるのですが、たまたま目にした、僕と同じ奈良県にお住まいの西畑保さんという方の記事がきっかけでした。小学校2年を最後に学校に通えなかった西畑さんはずっと読み書きができず、60代から夜間中学に通って文字を学び、70歳で初めて奥さんにラブレターを書かれたという逸話。衝撃を受けました。戦後すぐとかの「遠い過去の話」ではなく、今現在を生きていらっしゃる方の実話です。この話を知った去年、ちょうど長男が小学校2年生でした。学べること、学校へ行けることが当たり前ではないのだと、ハッとさせられました。息子だけでなく、僕の小学校時代をふり返ってみても、「キャラクターもの」の文房具を親にせがんで、飽きてはすぐ新しいものを買ってもらうような子どもでした。これは自分自身への戒めもこめて、落語にしなければいけない。漫談でも講演会でもない、レギュラーでやらせていただいているラジオ番組でもない。自分の生業である落語でやるべきだと考え浮かびました。人様の「人生」を話す以上、そうでないと責任が取れないと思ったんです。

一一「『ノンフィクション落語』をやってみよう」ということではなく、まず西畑さんの逸話との出会いが最初にあったと。

鉄瓶 そこがスタートなんです。「ノンフィクション落語」はこれからも、「こんなネタないかな」というところから作るのではなくて、あくまでも題材との「出会い」ありきです。僕が自分の目で見て、耳で聞いて、自分で感じたうえで、落語という形で残したい。そして、僕の高座を聞きに来てくださった方に「こんなすごい実話があってね。ちょっと聞いてくださいよ」と思える話だけをやっていきたいと思っています。

一一「噺」として完成させるために、まず“主人公”の方に実際に会って取材をされるということですが、どんなことを心がけていますか?

鉄瓶 できる限り「怪しい人じゃないですよ」ということを最初にお見せして(笑)、僕が聞きたいと思うことを全部聞いていきます。記事の「行間」を埋めていくいような、点と点を線にする作業とでも言いましょうか。たとえば、第2作となる「パパ弁~父と娘をつなぐ1095日~」は、娘さんが中学生のときにご両親が離婚されて、料理未経験だったお父さんが高校の3年間、毎日欠かさずお弁当を作った。そして最後のお弁当の日に、娘さんがお父さんへ感謝の手紙を送ったというご家族の実話です。そこに、「なんで毎日弁当作ろ思たんです? 何か買うようにお金渡すだけでよかったんちゃいます?」という素朴な疑問がわくわけです。西畑さんのお話だったら、読み書きができないために「職を転々とした」と記事には書いてあるけれど、実際どれだけの数の転職を繰り返したのか。聞いてみれば何十回だとおっしゃるので、さらにその詳細を聞いていく。実際に落語にしたとき「何十件の転職先」の内訳を語りはしないけれど、僕は胸の内でわかっていないといけない。いちばん必要なのは取材力より「編集力」だと感じますね。どこを強調するか、ふくらませるか、どういうバランスで“脚色”を加えるかというところが、肝だと思っています。

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 「ノンフィクション落語」第2作「パパ弁~父と娘をつなぐ1095日~」の初披露となる「笑福亭鉄瓶 独演会」が10月2日(日)大阪・朝日生命ホールにて、11月6日(日)東京・日比谷コンベンションホールにて開催。チケットはチケットぴあ他にて発売中。当日券も発売される。笑福亭鉄瓶 公式Twitter

▶︎後編「“真面目”の反撃一一すべては上方落語の未来のために」に続く

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