トランプ政権再来で、中国が日本に接近!?…日本企業の「脱中国」は後退するのか 尖閣・台湾情勢など潜在的リスクの再認識を

和田 大樹 和田 大樹

1月20日、トランプ大統領がホワイトハウスに4年ぶりに戻ってきた。前回同様、トランプ大統領は自国第一主義を前面に押し出し、中国に対する優位性を確保するべく同国に対しては特に厳しい姿勢で臨んでいくだろう。国務長官や安全保障担当の大統領補佐官に対中強硬派が相次いで起用されていることからも、それは間違いない。また、ウクライナ戦争ではロシア軍がウクライナ領土の一部を占領する現状での終戦を検討しており、米国と欧州との間で再び亀裂が深まるだけでなく、中東でもイスラエル至上主義を貫くと思われ、イランとの間で緊張が高まることが懸念される。

そして、トランプ政権が保護主義的な姿勢を鮮明にする中、最近になって中国が日本に接近する動きを見せている。不動産バブルの崩壊や若年層の高い失業率、鈍化する経済成長率など、中国は多くの経済的課題を抱えているが、この状況でトランプ政権による関税制裁などに直面することは避けたいのが本音だろう。しかし、中国自身もそれを回避することが難しいことは認識しており、トランプ政権の保護主義こそが自由貿易や市場経済にとって脅威であることを内外に強調することで、米国と日本、欧州との間に楔を打ち込みたい狙いがある。これが中国が日本に歩み寄りの姿勢に転じている理由だ。

一方、こういった国家間の動きは日本企業の間でも非常に注目されている。筆者は最近、東京都内で海外進出企業向けのセミナーで今年の地政学リスクに関する講演をしたのだが、当然のように多くの企業関係者が保護主義化する米国を懸念していたものの、同じくらい聞かれたのが日中関係の行方だ。近年、台湾情勢や経済的威圧、改正反スパイ法なども影響し、日本企業の間では脱中国依存の動きが広がってきたが、依然として日本にとって最大の貿易相手国は中国であり、同セミナーに参加した企業関係者たちからは、「米国が保護主義路線に突き進み、日中関係の改善が見込まれるので企業は脱中国を緩和させるべきか」、「脱中国依存は後退するのか」などの質疑応答があった。

しかし、日本企業にとって重要な認識は、トランプ政権の保護主義と日中関係をセットになって考えないことだ。尖閣諸島や台湾など日中間の懸念事項は何も改善の方向には動いておらず、依然として日中の間には潜在的なリスクが存在することを改めて認識する必要があろう。日中の外交関係が改善し、それによって経済関係でも明るい兆しが見えることは重要なことではあるが、地政学上のリスクが肥大化すれば、それによってそういった温かいムードは一瞬のうちに後退するのが現実である。日中関係は表面的に捉えるのではなく、潜在的なリスクを軸に物事を考えていくことが企業戦略上も重要となる。

また、トランプ政権の保護主義路線により、日本企業による中国回帰のような動きが生じれば、それは同時に日本企業の対米リスクを高める恐れがある。1月3日、バイデン前大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を阻止する決断を下したが、その理由の1つに日本製鉄と中国との関係への根強い懸念があったと考えられ、トランプ政権は日本企業の中国回帰という動きを否定的に捉えるだろう。無論、日本は最大の対米投資国であり、トランプ政権がそれを好意的に受け止め、日本企業の対米ビジネスの環境が良くなるシナリオも十分に考えられるが、トランプ政権下の米中関係は日本企業にとっては難しいものになろう。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

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