「ばーくはつだー!」のメロディが脳内再生される べらぼうで、でたらめなスケールの回顧展「展覧会 岡本太郎」

脈 脈子 脈 脈子

 「芸術は爆発だ」

 あまりにも有名なフレーズや「太陽の塔」で知られ、今なお愛されている芸術家・岡本太郎の回顧展が、大阪市の中之島美術館で始まっている。これまで、消失したと思われていた若き日の習作とみられる3点の絵画を含む150点以上の作品が展示される過去最大規模のスケールです。

 芸術とは生きることそのものである、と語ったその言葉通り、全存在をかけて生命のすべてをぶつけた、力強く鮮烈な作品を数多く残した岡本太郎。人々を惹きつけて離さない魅力は、一体どこにあるのでしょうか。

「孤独こそ人間が強烈に生きるバネだ」

 岡本太郎は1911年、漫画家の父と歌人で小説家の母の間に生まれました。18歳の時、両親とともにパリへ。約2年後の1932年ごろにパブロ・ピカソの作品と出会い「涙が出るほど興奮した」と、強い衝撃を受けます。以降、ピカソを超える自分だけの芸術を追い求め、抽象であり、具象でもある、岡本芸術の模索が始まりました。

 展覧会では、パリに滞在したおよそ10年間の作品も多く展示されています。今年2月にパリで発見され、さまざまな分析・鑑定の結果から岡本太郎の作品である可能性が高いとされた3枚の絵画、そして代表作の1つである「痛ましき腕」など、若き日の作品からは、孤独や苦悩がキャンバスを漂っているようです。

 20代の若さで異国の地に1人で暮らし、己の芸術を追求する日々は、どれほどの孤独や苦悩をともなうのか..。しかし、岡本太郎はそれさえも自身の中へ取り込み、芸術として昇華したと言えるでしょう。まさに、孤独をバネに、強烈に生きた証がありました。

 1970年に開催された大阪万博。そのテーマ展示プロデューサーに就任した当時のインタビューで日本人は几帳面だけど「無邪気さ」と「べらぼうさ」が足りない―。岡本太郎はそう話していました。パリで自分だけの芸術を追求する中で、日本人であること、日本人として表現すること、ルーツを含めた全存在をかけてヨーロッパの芸術を超える必要性を感じたのではないでしょうか。

 その思いが縄文土器の再評価や、日本全国を旅した「藝術風土記」の取材、原爆が炸裂する瞬間を描いた「明日への神話」の制作につながったのではないかと、筆者は感じます。

 自分自身と徹底的に向き合い、べらぼうに、でたらめに、芸術家として生きた岡本太郎の姿からは、混沌とした時代を生きる現代人にとっても支えとなる、普遍的な強さを見ることができます。この力強さが、今なお人々の心を捉えているのではないでしょうか。

 現代人の背中をドーンと張り飛ばしてくれるような頼もしさは「岡本太郎展」や「岡本太郎回顧展」ではなく、ずばりそのまま「岡本太郎」という展覧会の名前に込められているように思います。

「TAROMAN」とあわせて観るとさらに楽しい

 会場では、いたるところで「タローマン」に出会えるのも見どころです。タローマンとは、展覧会にあわせて制作された全10話の特撮ドラマ「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」の主人公。NHK教育テレビジョンで7月19日から放送が始まるやいなや、SNSを中心に熱狂の渦が巻き起こりました。監督は、すべてがウソの「大嘘博物館」で世間の話題をかっさらった、クリエイティブディレクターの藤井亮さんです。

 人類を襲うさまざまな「奇獣」を、でたらめなやり方でやっつける芸術の巨人タローマン。「奇獣」たちは岡本太郎の作品がモチーフになっていて「森の掟」「未来を見た」「駄々っ子」など、元になった作品を観て、岡本太郎の名言とともに繰り広げられるドラマを振り返るという楽しみ方も。頭の中ではもちろん「ばーくはつだー!はーくはつだー!」のメロディが自動再生されます。

 テレビ放送は終了していますが、現在はNHKのYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/c/NHK)で全話の視聴が可能。より深く、べらぼうに岡本太郎に迫りたい方は、展覧会とあわせて観ることをおすすめします。

 このほか、地元・大阪を本拠地に2004年まで存在したプロ野球チーム、近鉄バファローズのロゴも実は岡本太郎によるもの。猛牛の異名を持ち、親交があった千葉茂選手が近鉄バファローズの監督に就任したことを祝って制作されたもので、スケッチなどの貴重な資料が展示されています。

 岡本太郎の足跡を辿る過去最大規模の作品展示、そしてタローマン。さまざまなアプローチを通して見えてきたのは、痛みすらも乗り越えた「生身の美しさ」でした。徹底的に自分自身を受け入れ、べらぼうに越えてやろうともがいた芸術家の生きざまを求め、来場者が絶えない「展覧会 岡本太郎」は、10月2日まで中之島美術館で開催された後、来年にかけて東京都と愛知県を巡回する予定です。

◇ ◇

「展覧会 岡本太郎」
会期:2022/7/23(土)〜10/2(日)
場所:中之島美術館
時間:10:00〜18:00 ※入場は17:30まで
休館日:月曜日 ※9/19を除く

▼特設サイト
https://taro2022.jp/

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