赤ちゃんを救うため、母乳を届ける活動 「もっと早く知りたかった」「私もやりたい」 とママ→まだ認知度低く、今後の広がりに期待の声

宮前 晶子 宮前 晶子

「そろそろ母乳出なくなってきてたので先月発送分で最後にした。合計3リットルも送れてない気がするからあんまり役に立たなかったかもしれないけど、やってよかったと思う」とひよこ丸さん(@BiWUly9JdOEes9A)の投稿が話題に。今回、ひよこ丸さんと、その送った先である一般社団法人日本母乳バンク協会(以下母乳バンク)、そしてこの活動に関わる人々にお話を伺いました。

ひよこ丸さんが母乳を送っていたのは、小さな命を救うために活動している母乳バンクです。特に小さく早く生まれた赤ちゃん(極低出生体重児)のさまざまな病気を予防する効果がある母乳ですが、中には自分のお母さんから母乳を得られないケースも。

そこで母乳バンクは、人工的に作り出すことは不可能な母乳を、母乳が豊富に出るお母さん(ドナー)254名(※2021年12月時点)から提供してもらい、母乳を待っている早く生まれた赤ちゃんに届けています。

人知れず、大役を果たしたひよこ丸さんのつぶやきには、「救われたベビちゃんがたくさんいるはず!しぼってパッキングして送るのって大変なのに3L分も!尊敬です」「子育て大変な中、沢山の赤ちゃんのためにありがとうございます!」といった感謝の言葉が寄せられました。

今回、母乳バンクを初めて知ったという人たちから、「私も今後ぜひ提供したいと思います!!」「こんなのあったんですね!先に知りたかった💦乳腺炎になって毎日たくさん捨ててたので…。もし次妊娠することあったら協力してみます‼️」「私も子供産んだ頃に知っていたら、参加してみたかった」と、さまざまなリプライが寄せられました。

ドナーになったいきさつなどをひよこ丸さんに教えてもらいました。

誰かの助けになりたい、という気持ちでドナー登録

−−ドナーになったのはいつ頃ですか?

「3月に出産して、7月に母乳バンクの存在を知りました。8月の下旬に登録し、9月末に初めて母乳を送りました。 理由は、子どもができてから行政の助成金に助けられたり、知らない人に電車で席を譲ってもらったり、産後にはボランティアさんに随分と助けていただいたりしたので。自分も誰かの助けになりたいと思ったからなんです」

−−ドナーになったことで、日常生活に変化は?

「以前はコーヒーと緑茶をよく飲んでいたんですけど、どちらか1~2杯だけにするようにしました。搾乳機の扱いもおろそかでしたが、洗って消毒するようになりました」

−−母乳バンクには、どのようにして母乳を届けるのですか?

「月イチでクール便で発送します。量に指定はないので、その月に取れただけ。発送時には、体調や飲酒の有無、カフェイン摂取、薬、コロナにかかったかなどのレポートも添えます。到着すると、協会から手書きメッセージつきのお礼のハガキが返ってくるのが嬉しかったです」

−−産後は体力の消耗が激しく、ちょっとした時間も休みたいと思うものです。そんな中でドナーミルク用に搾乳して、というのはキツくなかったですか?

「そうですね。搾乳をする際には、搾乳機を洗浄し、搾乳する台(テーブルなど)や手が触れるものをアルコール消毒。とにかく、清潔にしないといけません。菌やウイルス、糸屑を入れないように注意を払いました。搾乳に時間がそこそこかかるので、自分の休む時間は減りましたね。

自分の子どもに与える量と搾乳で確保する量を常に気にかけないといけないですし…。少量しか搾れなかった時は、ドナー登録のためにわざわざ血液検査までしてもらったのに、この量は悪いな、と思いました」

−−投稿に反響があったことはどう感じました?

「母乳が余るという人がコメントや引用リツイートしてくれてて、そういう人がドナー登録できたらじゃぶじゃぶ送れてお互いに助かるんじゃないかしら、と。実際にドナー登録を検討した人の中には、居住地の県内に病院がなくて断念した人もいたようです。

財政面でも困難を抱えているようなので、多くの人が母乳バンクのことを知って母乳を寄付したりお金を寄付したりしてくれればいいなと思っています」

みんなで小さな命を大きく育てていく

母乳を提供するお母さんの協力について、母乳バンク協会の代表理事を務める昭和大学医学部・水野克己教授は「母乳がよく出るお母さまの母乳で助かる命があります。いくら人工乳が母乳に近づいたとはいえ、小さく生まれた赤ちゃんでは十分に消化できなかったり、腸の病気にかかったり、亡くなってしまうこともあります。ドナーミルクは単に栄養ではなく、腸の病気や感染症から身を守ったり、成長を助けたりするための薬のように大切なものなのです」と話します。

早く小さく生まれた赤ちゃんに母乳を与えられるかどうかは、赤ちゃんのその後の発達、ひいては人生にも影響を及ぼしますが、お母さんの治療のために妊娠20週代に帝王切開で産まれる赤ちゃんや出産後にお母さんが亡くなってしまう赤ちゃんも。水野教授は、「何らかの理由で母乳を与えられないお母さまにも安心していただきたい・・その思いからドナーミルクを提供しております」と語ります。

同協会には、ドナーミルクを利用したお母さんから「小さな赤ちゃんを救いたいという善意でドナーになってくれたお母さんに感謝を伝えたい」「ドナーミルクを初めて知ったので「大丈夫なのか」という不安と、「初めは自分の母乳を飲ませてあげたい」という複雑な気持ちはありました。でも母乳がいいというのは理解したので必要だと思った」という声が寄せられています。

実際に、ドナーミルクを利用している日本国内の医療機関は49機関(2022年2月時点)。そのひとつ神戸大学医学部附属病院小児科の藤岡一路医師は、「迅速に安心安全なドナーミルクを提供できる体制になって、大変ありがたいです。当院では、これまで赤ちゃん10名にドナーミルクを与えました。いちばん大きな子で現在1歳半。ドナーミルクに起因する感染などの合併症はありません」と言います。

水野教授によると、世界的にも新たな母乳バンクは設立され続けていて、ヨーロッパではこの10年で150から280へとほぼ倍に。世界では約600カ所の母乳バンクがあります。ただ、日本では認知度も低く、拠点は「日本橋 母乳バンク」のみ(2022年2月時点)。

「日本橋 母乳バンク」の開設をサポートしてきたピジョン株式会社の経営戦略本部コーポレート・コミュニケーション室PRグループ マネージャー手塚麻耶さんは、「小さく生まれた赤ちゃんはNICUで苦しい治療を受けています。またお母さんは小さく生んだことで自分を責め、すぐに赤ちゃんを抱いてあげられない喪失感に涙しています。NICUで働く医療従事者も、小さな命を絶やすまいと力を尽くしています。赤ちゃんたちの健やかな成長に寄り添ってきた当社だからこそ、母乳バンクの活動を支えたいと思いました」と思いを話してくれました。

ピジョン株式会社はこちらの活動を支援するために、母乳の低温殺菌など機器設備の提供、ドナーへの母乳フリーザーパックを無償提供。母乳バンクの活動の認知を広める活動も行っており、商品パッケージに母乳バンクのことを記載したり、SNSで情報を発信したりしています。

水野教授はこう語ります。「どんなお母さまも、赤ちゃんが元気にすくすく育ってほしいと願います。みんなで小さな命を大きく育てていただきたい」。

新規の母乳ドナーを受け付ける体制が整っておらず、ドナー登録を希望しても断っている状態が続いていましたが、この4月には新施設「日本財団母乳バンク」を開設することに。今後の活動を広めるため、母乳バンクでは活動を支える寄付金も受け付けています。

母乳を提供するだけではなく、一人ひとりができる形で人を育てていく、そんなやさしい世界が広がりますように。

■ひよこ丸さんTwitter https://mobile.twitter.com/biwuly9jdoees9a
■日本母乳バンク協会HP https://jhmba.or.jp
■ピジョン株式会社HP https://www.pigeon.co.jp/
■「ちいさな産声サポートプロジェクト」https://www.pigeon.co.jp/csr/tinycry/
■ピジョン株式会社【公式】Instagram https://www.instagram.com/pigeon_celebrate.babies/

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