保育士少なく、過酷すぎる保育現場 現役保育士とその家族が訴える「国や社会が”頑張り”に甘えている」

宮前 晶子 宮前 晶子

保育園でのクラスター発生や幼児のマスク着用、公園での園児置き去りなど、保育園に関するニュースを目にすると、現場で働く保育士の過酷な勤務状態が浮き上がってきます。現役保育士と、保育士のご家族にお話を伺いました。

SNSの世界でも、#保育士やめたい #保育士は奴隷じゃない #保育園ブラックなどといったフレーズが氾濫しています。ママ保育士さん(@twitttmama)は、そんな保育の現状を冷静につぶやく現役保育士。

「いま保育の現場で起こっていることを4コマ漫画にしました。 保育園に大切なお子さんを預けている保護者の皆さんにもぜひ見て欲しいです」と、漫画では、保育士が配置される人数が子どもの人数に対して少ない状況が、法律で決められていることを伝えます。

「4歳児クラス以上は子ども30人に対して、保育士が最低一人配置されることになっています」と例をあげ、この基準では、通常の保育ですら十分に行えないこと。病気やケガで複数の保育士が出勤できなくなった場合は、これを下回らざるを得ない状況になってしまい、子どもの保育状況が危険と紙一重になることを訴えています。

また、エイジさん(@anchieiji2)は保育士の家族という立場から保育士のブラック度合いを投稿。「妻は保育士なんですけどつくづくブラックだなと。3月末で退職する人が多いけど、ほぼ全ての人が有給消化できない。行事前の鬼の持ち帰り仕事、手取りはみんな10万円代。子ども好きはお金は求めないという謎の理想像を押し付けてるように見えます。本当に何とかなりませんかね。。」

大きな反響を呼んだつぶやきを、どのような思いでされたのでしょうか? ママ保育士さんとエイジさんに、さらに詳しく保育の現場について聞きました。

「保育の業務は増える一方、改善の気配なし」

――保育の現状についての投稿、「子ども1人ですら大変なのに、大人1人で子ども30人の世話が可能?」「0歳児3人を1人でってのも無理あると思う。 災害が起きた時、1人はおんぶ、両手に園児で安全に逃げ切れると国は思ってることが怖い」などのコメントもありました。

「子どもと普段接している方であれば、この配置基準って無茶苦茶だとわかるものなんです。では、保育士の人数を増やせばいいとなりますが、保育士の人件費は配置基準をもとに決められているため、保育士を多く雇用すると、一人当たりの賃金が減るだけで…。保育士の給与が低いという問題にもつながっていくんです」

――ママ保育士さんは長く働いていますが、現場の状況に変化はありました?

「正直言って改善されていないですね。業務は増えています。 特に、保育士の業務内容に、保護者がリフレッシュする時間の保育、また保護者の業務時間外の保育という保護者支援が加わり、子どもたちの保育時間が長くなったことは大きいです。長時間保育が多くなるなら、保育士の雇用も対応しなくてはいけないと思うのですが、その点が見落とされています」

――置き去り問題についてのニュースもありましたが…。

「現場はギリギリの状況でまわしているので、置き去りのニュースを見ると、ゾッとしますね。絶対起こってはいけないけど、起こってしまうかもしれない事故だとも。 例えば、1歳児クラスの子ども12人を、国が定める保育士の人数2人でお散歩に連れて行ったとします。 もし、そこで何かあったら、残り11人を保育士1人で見なくてはいけません。十分に注意は払っても、無事に園に戻れるかはわからないです。だから、配置基準の見直しをして欲しいんです」

――さらに、コロナ禍の保育は今までの保育活動とは異なる苦労があると思います。

「室内、玩具の消毒に時間がかかるので、持ち帰り業務が増えましたね。また、今までのような行事が出来ないので、新たに企画する手間も発生しました」

――最近は、全国の保育園でクラスターも発生していますから、現場の緊張感も相当なものなのでは?

「休園も相次ぎましたが、濃厚接触者の判定や登園の基準がどんどん甘くなっているんです。なんだか、「コロナから子どもを守る」ことではなく「休園させない」ことが目的になっているようで…。もし、保育士が倒れて配置基準を下回っても、休園運営は続けなくてはいけない。 その割には、保育士にワクチンやPCR検査を優先してくれるといった援助は一切ないんです」

――心身ともに疲れ切ってしまい、離職してしまう保育士さんも多いのでは?

「業務時間外の仕事が多いし、体力的にもキツイ。1人の保育士が2人の子をおんぶと抱っこなんて、ザラにあります。トイレすらなかなか行けず、泌尿科にお世話になることも。私自身、退職についてはいつも考えています。私が働いている保育園は居心地がいいのですが、保育園はブラックが多いんです。だから、他の保育園への転職は考えてないですね。転職するとしたら、次は保育士はやらないです」

「保育士の頑張りに甘えすぎの世界です」

――エイジさんは、保育士の奥様の働きぶりをそばで見る立場ですね。

「以前の私は、保育士に対する理解が乏しくて、持ち帰り仕事を何時間もやることに、お人好しすぎると妻に怒ってました。でも、園児たちのために、必死で頑張る姿勢に尊敬を抱くように気持ちが変化しました。ただその頑張りに国や社会が甘えています。低賃金や持ち帰り仕事、サービス残業に対して、あまりにも見て見ぬフリをしていることに憤りを感じるようになったのが今の心境なんです」

――家族からのつぶやきに、切羽詰まったものを感じました。

「子どもたちの抱っこやおんぶなどで妻の腰や首、手は悲鳴を上げているため、退職を決めました。しかも有給は未消化です。今まで辞めていった多くの保育士も有給未消化で退職していった、それが当たり前だと知って、何でもかんでも人の善意に甘えた、とんでもない業界だと改めて感じて、SNSでその憤りを発信したのが今回の投稿です」

――「やり甲斐だけでは長続きしない過酷な職業」「保育士不足で現場はカリカリ。気付けば自分の精神も体力もズタボロ」「持ち帰りの制作は自腹でやってますよ。上司、組織が腐っています」「妻が保育士ですが、似たような境遇。 もう「無」の心境だと言ってました」などリプライもたくさん来ています。

「共感の渦にビックリした次第です。コメントでも待遇の悪さを書いている人がたくさんいましたが、保育士の給与は本当に低いんです。そのため、無責任に働く人や、鬱になり途中で来なくなる人も増えているそうです。また、25歳前後で手取り15万円も貰えないので週末にキャバクラなどで副業をする人も。結局、保育士専業で頑張っている人がシワ寄せを受けているのではないかと思います」

――別の投稿では、エイジさんも持ち帰り仕事を手伝ったとありました。

「保育園に行くとわかると思いますが、掲示板に貼ってあるものからおたより、誕生日の手作りプレゼントまで保育士の手作りです。学芸会、運動会、卒園式前などの行事前は夫婦で深夜まで作業してますね。しかも、持ち帰り仕事で使う文房具などの諸費用はほとんど自腹。保育園で使う教材や絵本を自分で買う保育士も多いそうです」

――コメントには、「僕も保育士です。テレビでは保育園には感謝しかないと言っているのを良く見ますが、実際感謝されているとは感じず。休園は迷惑だ困るとマイナスな事くらいしか、言われません」というものもありました。

「誰しもが保育園や幼稚園で初めての思い出をつくり、成長の土台を作っています。でも、そこで働く先生たちがカラダもボロボロ、持ち帰り仕事、サービス残業によってぎりぎりの精神状況で働き、生活苦になっているのは、どう考えてもおかしい。改善すべき問題だと考えております。保育士に尊敬とか綺麗な言葉はいりません、金で示してほしい」

保育士の給与についての4コマ漫画も作って伝えていきたいと考えているママ保育士さんもこう言います。

「保育に関わる多くの問題は、配置基準の見直しで改善できることもあります。子どもたちを安全に健やかな環境で保育するためには、保育士だけではなく、保護者との協力が大切。力を合わせて、声を大きなものにしていかなくてはいけない。大きな声が国に届いて欲しいんです」

また、エイジさんも「皆さんの切実なリツイートやコメントが何かが動きだす結果となって欲しい」と呼びかけています。

■ママ保育士さんTwitter  https://twitter.com/twitttmama
■エイジさんTwitter https://twitter.com/anchieiji2

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