予期せぬ不幸は自業自得?考え方に違い アメリカ人→将来の人生の糧に 日本人→日頃の行いのせい

竹内 章 竹内 章

他人が思わぬ不幸に見舞われたとき、あなたはどう考えますか。日本人はアメリカ人よりも「不幸に見舞われたのは、日頃の行いが悪いから」と考えやすく、アメリカ人は「不幸もいつか人生の糧になる」と考えやすいことが、近畿大学の村山綾准教授、大阪大学大学院の三浦麻子教授、北海学園大学の古谷嘉一郎准教授の心理学実験で示されました。日頃の行いが悪い→報いは当然という考えは、偏見を助長し、やがて差別を生みます。自己責任どころか自業自得なのでしょうか、この国は。

論文は、Wiley社が発行する社会心理学の学術雑誌”Asian Journal of Social Psychology”に掲載されました。こちら→https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/ajsp.12510

ある人に起こった不幸を「自分はあんなことにはならない」と思いたいがゆえに、その人の過去の道徳的な失敗のせいにして非難することがあります。心理学で「内在的公正推論」と呼ばれる心の動きです。一方、「今はつらくても、いつか必ず良いことが」と、現在の不幸が将来埋め合わされることを期待し、不安を抑えようとする「究極的公正推論」もあります。 

実験ではアメリカ人81人(男性42人、女性39人)、日本人88人(男性44人、女性44人)を検証。「街路樹が突然倒れ、下敷きになった運転手の男性が重傷」という架空の記事を見せ、その男性が(1)窃盗罪で在宅起訴中の高校教師(2)周囲からの人望が厚い高校教師、という情報のいずれか一方を伝えました。その後、男性に起きたことについてどのように考えたかを尋ねました。

回答を分析したところ、犯罪を犯した(道徳的価値が低い)人には内在的公正推論が行われやすく、周囲が尊敬する(道徳的価値が高い)人には究極的公正推論が行われやすいという傾向が、日米ともに見られました(図1、2参照)。その中でも日本人は、道徳的価値が低い人に対して「日頃の行いの結果」と考えやすいことわかりました。こうした考えは、道徳的価値が低い人が困っているとき、「仕方がない」「報いを受けている」と捉える可能性があります。 

三浦教授の別の調査では、「コロナ感染は自業自得だと思う人が、日本では他国に比べて多い」ことが判明しています。2020年に続き、2021年3月に、日本と海外の計5カ国でそれぞれ約400人を対象に、「コロナウイルスに感染する人は、自業自得だと思う」との考えについて、「非常にそう思う」から「まったくそう思わない」まで6段階で尋ねました。この考えを肯定した人は、アメリカ、イギリス、イタリアの欧米3カ国では2~5%台、中国は3.48%なのに対し、日本では17.25%で、明確な差がありました。 

村山准教授らの今回の調査では、不幸な目に遭った人の道徳的価値に関係なく、日本人はアメリカ人よりも「不幸は将来的に人生の糧になる」と考えにくいという文化差も見られました。日本人の多くが特定の信仰を持たないため、遠い未来の出来事を想像して今の不安を解消するという方法になれていないことが考えられます。 こうした不安のコントロールの仕方に馴染みがない結果、内在的公正推論をより行いやすい可能性があります。村山准教授に聞きました。

 

―日米の違いはどこから

「アメリカ人については、信仰(キリスト教)を持っている人の方が持たない人よりも、いわゆる自業自得的な考えをしやすいことが分かっています。一方、日本人は信仰の有無に関わらず、アメリカ人よりも道徳的価値が低い人に対して内在的公正推論をしやすい。日本人では、少なくとも信仰の有無ではなく、広範囲にわたって「日頃の行いが悪いと…」のような考え方が浸透しているとも考えられます。自然災害などが多いことで形成されがちな強固な規範意識や、道徳違反行動をとった人物に対する厳しい態度が影響しているのではと思っています」

―コロナ禍の感染者も「日頃の行いが…」でしょうか

 「三浦先生たちの研究結果も、内在的公正推論の観点から解釈されています。感染者に対して『どうせ感染するような行動をとっていたのだろう』と考え、事情を知らない第三者が一方的に自業自得と決めつけるのも同様です」

―幸運に見舞われた場合の研究は

「私と三浦先生の共著で2016年に論文になっています。日本人のみのデータですが、いい人の幸運は悪い人よりもその人の日頃の行いに帰属されるという結果が出ました。つまり、いい人の幸運、悪い人の不運が日頃の行いのせいとされるわけです。 おそらくアメリカ人でも同じような傾向にはなると思いますが、ここまでわかりやすく差が出るのは日本人に特有なのかもしれません」

―コロナ禍だからこそ、「不幸は将来的に人生の糧になる」と考えるべきですか

「不幸は将来的に人生の糧に、の本質は、長期的な視点を持てるかという点に尽きると考えます。日本人はこのような視点を持ちづらいのは明らかなので、社会システム(政府や自治体)側が、そうした視点に基づく政策をたてサポートすることが考えられます。しかし今回のコロナ禍ではあまりなかったように思います」

―コロナ禍という現状を追従するのがやっとでした

「先の見通しが立たず不安が増す中、国民が長期的視点を持てるようにするためには、政府や自治体がどんな目標を掲げ、その目標を達成するために何をする予定なのか、金銭的な補償はどうなのか、といった情報の提供が重要です。ワクチン接種については、政府は接種スケジュールなど長期的なビジョンに関する説明を積極的に行っていたように思います。一方、突然の一斉休校やGoToの急遽中止は、かえって不安を増大させるような情報の出し方でした。この点については、政府や自治体の今後の課題といえます」

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