「若い頃は気性が荒く、気に入らなければ噛む・蹴る・引っかくが当たり前。高齢になってからは夜鳴きや徘徊があり、いつも色々難しい猫でしたが、だからこそ深い繋がりがあったように思います」
亡き愛猫ビッケくんを、そう懐かしむ飼い主のりょう吉さん(@ryokichi77)は現在1匹の愛猫と生活中。触れ合えなくなった今も、ビッケくんを心から愛しています。
「一時保護」のつもりで迎えた生後1カ月の子猫
2002年5月5日の夕方。飼い主さん夫妻はスーパーに向かい途中、マンションに面した公園でけたたましく鳴く1匹の子猫と出会いました。子猫の月齢は、生後1カ月ほど。体は手に乗るほどの小ささでした。
保護しようとは考えていなかったものの、見て見ぬフリなどできなかった夫妻は段ボール箱と猫用ミルクを用意。しばらく子猫の様子を見守っていました。
すると、その様子を見ていたマンションの住人が、まさかの行動に。自身の愛犬が使っていたキャリーケースを飼い主さんたちに渡し、保護を依頼してきたのです。
勢いに負け、飼い主さん夫妻は子猫を一時保護することに。体にノミがいたものの子猫は健康で元気いっぱい。離乳も済んでいました。
初めは「一時保護」のつもりでしたが、一緒に暮らす中で家族はメロメロに。「ビッケ」という名前をプレゼントし、正式に家族の一員になってもらいました。
飼い主さん夫妻にとってビッケくんは、“初めての猫”。1日でも長生きしてもらいたくて、猫の生態をネットや本で勉強し、日常の様子をよく観察するようになりました。
ビッケくんは家の雰囲気を察知する猫だったそう。特に好きだったのは、飼い主さん夫妻が仲良く過ごす時間。夕飯時は必ず近くにきて、子どものように座っていたのだとか。
ただし、家族以外の人や動物は苦手。動物病院も嫌いで生後半年の頃に去勢手術をした際には、カルテに「暴れ猫」と書かれたそう。
「いつも甘えたいわけではないけど、『オレが甘えたい時にはすぐに来て!お尻トントンはオレがいいって言うまで!それ以上は噛む!』と、要求がはっきりした猫らしい子でした」
1歳の頃には「ストルバイト尿路結石」になりましたが、療法食により3年ほどで完治。その後は13歳頃まで、病気知らずな日々を送りました。
睡眠時間を削ってシニアの愛猫をあやした日々
13歳の頃、ビッケくんの腎臓が弱ってきたことから飼い主さんは飲水量を増そうと、ウォーターボウルを増やしたり、給水器を導入したりと工夫。腎臓や便秘に良いと言われているサプリも取り入れ、健康管理に励みました。
「15歳頃には巻き爪が肉球に刺さりそうになっているのを見つけたので以降、爪のチェックをよくするようになりました」
耳が聞こえにくくなったのは、17歳頃。それに伴って鳴き声が大きくなり、徘徊や夜鳴きも見られるように。飼い主さんはその都度、ビッケくんをあやし、心に寄り添いました。
「だから、亡くなる前の数年間は続けて6時間眠れたことはありませんでした。正直、結構大変でしたね(笑)」
しかし、年を重ねたことで見られた嬉しい変化もあったよう。ブラッシング嫌いから一変し、飼い主さんに被毛のケアを任せるようになったのです。
「まるで『宜しく頼む』という感じ。自分で上手く毛づくろいできなくなったからだと思いますが、できないことをすぐ人に任せる姿勢がすごいなあと思いました」
加えて、性格も丸くなり、隙あらば「撫でて」と催促するように。そんなビッケくんに飼い主さんは毎日「生きていて偉い!すごい!天才!」と伝えました。
21年間のニャン生を謳歌して天国へ
別れは、ビッケくんが21歳になった頃に訪れました。ある日、ビッケくんは急に元気がなくなり、ぐったり。呼吸数が減っていき、2日後にお空へ旅立ちました。
「最期まで噛み癖は治らず、亡くなる数日前に噛まれた手の傷は見送る時も残っていました」
亡くなったのはビッケくんが大好きだった、家族の夕食時。夫婦共に家におり、看取ることができました。
「長生きできたのは、ビッケの生命力のおかげだったと思っています。快食・快便で歯も強く、腸内環境、口腔環境もずっとよかったから…」
寿命だった。そう思えたため、死後に深い後悔に襲われることはありませんでしたが、心に空いた猫型の穴は埋まらず。飼い主さんは、何も手につかない状態になってしまいました。
そこで、始めたのが保護猫団体でのボランティア。もともとインドア派であるため、新しいことに挑戦するのには勇気がいりましたが、この時だけは「新しいことをしなければ!」という気持ちになり、一歩を踏み出したそう。
「ボランティアは、今も続けています。心の穴を感じる時間を作らないという作戦で、ペットロスをなんとか乗り切れた気がする。ビッケを知っている猫友さんと話すことも大きな支えになりました」
どんな時も、あの子の幸せを願えたことが私たちの幸せだった。きっとビッケは、私たちでなければビッケらしく生きられなかっただろう――。そう語る飼い主さんの猫愛は天国にも届いているはずです。