「推し活」なら京都へ 車折神社の「推しお守り」人気 すとぷり風セット手がける美容室、「Aぇ!group」ファン集うカフェも

陰山 篤志 陰山 篤志

 好きなアイドルやアニメキャラクターなどを、「推(お)し」と表現するのがすっかり定着した感がある。グッズを購入し、イベントに参加するなどの活動を通じて推しを応援する「推し活」に関連したサービスや取り組みも京都市内で広がりを見せる。推しのイメージカラーに合わせたヘアセットを手がける店や、メッセージをデコレーションして推しへの思いに浸れるコースを設けたカフェが、若い女性らでにぎわう。10代の2人に1人近くが「推し活をしている」とされる時流を反映している。

 推し活という言葉は、以前から使われていたが、2021年に宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が芥川賞を受賞し、一気に認知が広がったと言われる。同年の新語・流行語大賞でも、推し活がノミネートされた。

 グッズ購入はもちろん、ライブやイベントに参加する、出演するテレビを見る、ファン同士で交流する、SNSで推しについて発信するといったものまで、幅広い行為が推し活とみなされる。好きに加え、「一押し」という他人にもお薦めしたくなるといったニュアンスもこもる。「オタク」と明確な違いはないとされるが、オタクよりも明るくカジュアルな印象が比較的強いとも言われる。

 「きょうもいい感じで、すごくかわいい」。「京都ヘアセット着付け専門店Tagmaru(タグマル)」(南区)で10月上旬、滋賀県から訪れた高校2年生(16)ができあがりに満足げな表情を浮かべた。動画投稿サイトなどで活躍する人気グループ「すとぷり」の「ころん」さんのイメージカラーにちなみ、水色のリボンを髪にセットしてもらった。髪でハートマークも作ってもらった。「こういう店は、自宅の近くにはなかなかなくて、ありがたい。気分が上がって、その日一日が楽しくなる」と笑顔を見せる。缶バッジを無数にくっつけた通称「痛バッグ」を手に、推し活は「人生の一部」と言い切る。

 タグマルでは、新型コロナウイルスの感染が拡大した時期、主力だった結婚式の参列者向けのヘアセット需要が減少。ある時、ライブ向けのヘアセットを希望する人が多く来店し、新サービスの着想を得た。推し活に詳しいスタッフの薦めもあり、21年秋から「推し活ヘア」として展開を始めた。京都市内のパイオニア的存在に位置づけられる。

 タグマルの谷田知洋さん(36)は「利用が伸びている」と手応えを口にする。「量産巻」と呼ばれる巻いた髪にしたり、髪にリボンを編み込んだりしていく。かわいらしい「ガーリー」な雰囲気に仕上げていくことが多いという。

 JR京都駅からほど近く、京都周辺でのライブやイベントに参加する人たちが全国各地からやってくる。漫画・アニメの総合見本市「京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)2024」が9月に行われた際も、多くの来店があった。

 ヘアセットをすることによって、ライブやイベントでヘアセットに気づいた推しから手を振ってもらったり、「かわいいね」と言ってもらったりといった「ファンサ(ファンサービス)」をもらえることもある。ただ、ファンサはあくまでも副次的な位置づけで、ヘアセットによって、自分自身のテンションが上がるのが何より重要という。

 「自己肯定感が上がる。きょうの自分、ちょっとかわいいんじゃない!? と思える」。京都市の女性会社員(22)は話す。アニメ「わんだふるぷりきゅあ!」に登場するキャラ「キュアフレンディ」のイメージカラーに合わせた紫のリボンを髪にあしらってもらった。女性が身につける紫が随所に使われた服装に、ヘアセットが映える。

 今後もサービスのPRに努めつつ、カフェなどとのコラボレーションも検討したいという。ヘアセットをして、推し活ができるカフェでゆっくりしてもらうといった趣向が考えられるという。代表の丸田あやねさん(38)は「連携もしながら、推し活の活性化につなげたい」と意気込む。

 推し活への関心は全国で高まっている。SMBCコンシューマーファイナンス(東京都)が10代を対象に行った24年調査で、45・2%が推し活をしており、17・4%が「していないが、したいと思う」と答えた。前向きな回答は62・6%に達した。

 消費意欲も旺盛と言えそうだ。1カ月に「5千円~1万円未満」を使っている人が22・6%で最多。使途では、グッズや、コラボ商品・サービスの購入、ライブ・イベントに参加、うちわなどのグッズ作成といった回答が多かった。

 矢野経済研究所(東京都)が「オタク市場」について23年に実施した調査によると、22年度の市場規模はアイドルが1650億円、同人誌が931億円、プラモデルが548億円、コスプレ衣装が265億円。23年度はそれぞれ、1900億円、1058億円、570億円、280億円と見込まれているという。

 手作りスイーツが人気の下京区のカフェ「papillon(パピヨン)」は、22年に「推し活コース」を設けた。オーナーの増井祥藍(さら)さん(23)が、東京都の秋葉原などで推し活カルチャーを目の当たりにしたのがきっかけ。「よい意味で現実逃避して、ストレスを発散している」と感じたという。

 推し活コースは予約制で、一室を貸し出す。推しの誕生日やデビュー日を祝うメッセージなどをプレートに描き、ブラウニーにろうそくをともして祝うことができる。来店者は、推しのぬいぐるみや写真を持ち込んで華を添えつつ、写真や動画を撮り、自分で楽しんだり、SNSに投稿したりする。推しのカラーの花束やバルーン、自作したうちわを携えてくる人もいる。パピヨンが用意しているカードホルダーなどの推し活グッズも活用できる。貸し切り空間で、誰にも邪魔されずに推しとの時間を過ごせるのが特徴だ。

 「にじさんじ」や「Number_i(ナンバー・アイ)」、「Aぇ!group(ええグループ)」など、さまざまな推しのファンが来店。18~25歳の女性が目立つ。増井さんは「現実を忘れ、日常の疲れを取ってほしい」と願う。

 旧ジャニーズ事務所などのアイドルらの名前が書かれた玉垣が多数奉納され、「推し活の聖地」と言われる右京区の車折神社は、「推しmamori」を22年から手がける。同神社が祈願したお守りで、「推」の文字を大きくあしらい、中心には梅の花の形を模した「梅結び」をデザインしている。梅結びには、「固く結ばれた絆」といった意味があり、推しとファンとの間のつながりがより強くなるようにとの祈りがこもっている。願い事や推しの名前を書き込めるようにもしている。

 高倍率でなかなか当たらないライブチケットの当選や、ライブでよい席が当たるようにと思って推しmamoriを受ける人が多い。黄や青、橙(だいだい)など、9色をそろえており、アイドルらのライブがあると、その推しのイメージカラーの推しmamoriが多数求められるという。南座(東山区)や新橋演舞場(東京都)、大阪松竹座(大阪市)でも授与している。オンラインでも取り扱っている。

 CD販売大手「タワーレコード」(東京都)が扱い、同神社が祈祷(きとう)した「推し活お守り」もオンライン販売で好評を得る。以前タワーレコードに在籍し、推し活お守りを企画した兼岩裕子さん(55)=wacko idea代表、千葉県=は「SNSでの反響がすごかった。チケットが手に入らず、神頼みをしてでもという思いが救われる」と語る。兼岩さんは推しmamoriにも携わった。

 トゥシューズなどのバレエ用品を販売し、バレエスタジオも運営するチャコット(東京都)の「舞踊御守」も、公演の成功や推しの飛躍などを願う人らから支持されている。牛革を用い、同神社が祈祷したお守りで、紫や赤などがある。チャコット代官山本店で手に入る。

 雑貨販売3COINS(スリーコインズ)で9月に発売した「推し活お守り」は、5万8千体が1週間でほぼ完売。同店を運営するパル(大阪市)は「SNSでは、チケットが当たった、イベントに当選した、などのうれしい声が見受けられる」とする。12月ごろからの再販を予定。同神社の知原さやか権宮司は「海外でも話題になっているようだ。1週間で完売というのは、こちらもびっくりした」と驚く。

 推し活について、同神社の丸山拓権禰宜は「私見」と断りつつ、例えば自分好みの観音像を作るかつての営為が現代では「アイドルに移っている」と指摘。アイドルの日本語訳は「偶像」であり、推し活と仏像信仰には類似性があるとみる。つまり、推し活という言葉こそなかったが、人々は以前から推し活をしていたと言えると考えられるとの見解を示す。

 今後、推し活はどのように推移していくのか。推し活お守りだけでなく、タワーレコードで多彩な推し活グッズを考え出し、大ヒットに導いた兼岩さんは「グッズ関係は、レッドオーシャン(競争が激しく飽和気味の市場)になりつつある」と指摘。安易なコラボレーションなどでは見透かされるため、「アイデアや、異質なものとのうまいマッチングなどが重要になるだろう」と見込む。

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース