「小学生のころは15分休みにあんなに遊べたのに」…大人になるとなぜ時間を短く感じるの? 専門家に聞いた

川上 隆宏 川上 隆宏

「休み時間なんて、あっという間なのに…小学生のころは、凄かったな…」と、年齢による時間感覚の違いについてつぶやいたツイートが共感を集めていました。大人になった今、ちょっとスマホを触っているだけで15分くらいあっという間に経ってしまうのに、小学生のころは同じ時間で、校庭まで出かけてドッジボールをしていたんですよね…。大人になるとなぜこんなに時間を短く感じるようになるのか、専門家の方に聞いてみました。

投稿したのは愛知県在住で漫画家のコハラモトシ(@kohara_motoshi)さんです。9月13日に漫画とともに投稿すると、25日までに8.5万件近いいねがついています。

「気軽に投稿しただけだったので、こんなに反響があるとは」と驚くコハラさん。休み時間はつねにドッジボールをしていたという小学生時代を振り返り、「仲間を集めて、チーム分けして、準備して、片付けの時間も考えると…実質、数分しか遊べない。少しでも遊ぶ時間を長くするために、授業中でもドッジボールをするための段取りを考えていた」といいます。

リプライ欄には、「子どものころは、どの時間も全力で生きてた…」と当時の心境を懐かしむ意見のほか、短い時間でも「長く充実して感じていた」という声が続々と。「時間の心理的長さは年齢の逆数に比例する…という『ジャネーの法則』というものがあることを教えてくれる人など、色々な理論を説明してくださる方もいて、面白かったです!」とコハラさん。

しかし、実際に大人は子どもよりも時間を短く感じているのでしょうか。時間の認知について詳しい千葉大学大学院人文科学研究院教授の一川誠さんに聞きました。

■時間の感覚にはいろんな要因がかかわっている

――大人になって、時間がとても短く感じるような気がしています。なぜでしょうか。

「体験される時間の長さ(心的時間)」は複数の要因によって長くなったり短くなったりします。大人が子どものころよりも時間を短く感じていると考えられる要因としては、下記のようなものがあげられます。

▽身体の代謝:心的な時間の長さの知覚の基礎にある「心的時計」のペースが、代謝と対応して早くなったり遅くなったりすると考えられています。子どものころの方が代謝が激しく、加齢に従って低下しますが、それに従い「心的時計」の進み方もゆっくりになると考えられています。「心的時計」がゆっくり進むと、実際の時間よりも心的時間が短く感じられることになります。

▽体験される出来事の数:物理的には同じ長さの時間であっても、より多くの出来事が認識された期間の方が長く感じられます。子どものころは、いろんな事柄が新鮮で、一つ一つの出来事を体験し、記憶に留めやすいですが、成長するに従って、複数の出来事をひとまとめの出来事として認識しやすくなります。それは認識される出来事の数が減り、心的時間を短くする効果があります。

▽繰り返し:繰り返しやルーチン化された出来事、作業は、その間の時間を短く感じさせる効果があります。大人の方がいろんな事柄を繰り返し体験するので、心的時間も短くなると考えられています。

▽時間経過に注意を向ける回数:時間経過に注意を向ける回数が多いほど、その間の時間は長く感じられるようになります。子どものころの方が、経験も少ないので、時計を気にしたり、いろんなことを待ち遠しく感じたり、時間経過に注意を向ける回数が多くなる傾向が強く、そのことが感じられる時間を長くする可能性が考えられています。

▽体験される空間の大きさ:人間は自分の身体の大きさを物差しにして空間の大きさを評価します。他方、大きな空間で過ごす時間ほど長く感じられる傾向があります。同じ空間にいても、身体の小さな子どもの方が大人よりも長い時間を感じやすいと考えられます。

――うわっ、さまざまな要因が関係しているものだったんですね。

ほかにもいくつかありますが、説明が簡単なものだけあげておきました。特にどの要因の効果が大きいということもわかっていません。時間の長さを判断するその都度の状況によって、各要因の効果の強さは変わると思います。

■子どもと大人では時間の感覚がどれくらい違うのか

――なるほど…そういえば、Twitterには「ジャネーの法則」というのを紹介する人もいて…。「時間の心理的長さは年齢に反比例する」そうなのですが…これって実験などで証明されていることなのでしょうか。

この「法則」と言われているものは、哲学者のポール・ジャネーが発想したものを、その甥で心理学者のピエール・ジャネーが自分の著書で「法則」として紹介して広く知られるようになったものです。もともと思索に基づいて出てきたもので、彼ら自身では実験的な裏付けは行っていません。また、その後の他の研究者が実験などで確認したこともなかったと思います。

――えっ、そうなんですか?この法則によると、たとえば「30歳の大人は6歳の小学生にくらべて、同じ時間でも5分の1くらいの長さにしか感じない」ようなのですが…。もしかしたら「30歳の人が感じる15分は、6歳の小学生にとっては5倍の75分くらいに感じている」ともいえるかもしれませんが…。

そのようなことはありません。なお、人間が変化を感じる度合いについて説明する「ウェバー・フェヒナーの法則」というものがあり、人間の感覚量は受ける刺激量の対数に比例するといわれています。時間の感覚も,他の多くの感覚と同じように、この法則に対応している可能性はそれなりに高いだろうと思います。ジャネーの法則が予想するよりも、年齢による時間の感覚の変化はかなり緩やかなものになります。

■アグレッシブに動いていたからこそ、時間を長く感じていた?

――ちなみに投稿者さんは、短時間でも校庭に出てドッジボールで遊んだ子ども時代の行動力を思い返して驚いています。やはり子どもは心理的に感じる時間が長いので、短い時間に色々なことができるのでしょうか。

それはむしろ逆です。靴を履き替えたり、いろんなプレーをしたり、いろんな行為を遂行すると、それだけで体験される出来事の数が多くなり、短い時間でも、心理的な時間は長く感じられます。子どもの方が代謝が激しいですが、これは身体を動かしやすいということでもあります。短い時間に多くのことができるということになりますので、感じられる時間を長くする傾向がさらに強められている可能性も考えられます。

大人になって「ネットを見ていたら15分があっという間にすぎてしまった」というのは、ネット検索という1つの作業しかしていないため、主観的にも短く感じがちになるためでしょう。

――時間が早く過ぎるのを、なんとかくいとめる方法はありますか?

「繰り返しを避ける」「だらだらとしたメリハリのない時間の過ごし方をしない」「一つ一つが記憶に留められるような新しい体験をする」ということですかね。

…ああ、耳が痛いです!!!

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【プロフィル】

▽一川 誠(いちかわまこと)/千葉大学大学院人文科学研究院教授

専門は実験心理学。実験的手法により人間が体験する時間や空間の特性、知覚、認知、感性における規則性の研究に従事。現在は特に、体験される時空間の特性の検討を行なっている。

著書に『大人の時間はなぜ短いのか』(集英社新書)、『時計の時間、心の時間-退屈な時間はナゼ長くなるのか?』(教育評論社)など多数。「日本時間学会」の会長をつとめる。

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今回の質問に関連してコハラモトシさんはこんな漫画も投稿しています。

「何かに没頭して実際に10時間経っていたのに、体感では2時間くらいしか経ってないような気がするとき、その人の体は2時間分しか歳をとってないらしい」

こちらに対して一川さんは「詩的な表現と思いますが、心的な時間に対応して身体の加齢が遅くなっているとは思えません」と指摘。一方で、「新しい経験をするよう、日ごろから活動的な生活をしていると、身体全体の老化を遅くすることは可能かもしれませんね」とコメントしています。

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