「講演料と野球教室のギャラが高すぎる」  コロナ禍で浮き彫りになった実態…野球界衰退の遠因か

吉見 健明 吉見 健明

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、プロ野球OBの貴重な収入源ともなっていた講演や野球教室の出演依頼が激減している。「3密」を避ける意味で仕方ない面もあるが、その根底にあるのは高額なギャラとも。それが原因で野球人気の衰退、野球人口の底辺拡大の障害になっているとしたら悲しいことだ。

 人気、実績とも“中の中”だったあるプロ野球OBから嘆きの連絡が入った。

 「今年の3月ごろから野球教室などの依頼がサッパリ来なくなった。コロナもあるけれど、ギャラが高いと思われているのもその原因。オレなんか、そんな高くなくていい。野球を教える方が楽しいのに…」

 コロナ禍だからオファーが減っているのは仕方ないが、どうやら依頼する側と依頼される側にミスマッチが生じているようだ。ある大手広告代理店の幹部によると現在、プロ野球OBの講演料トップは、かつての超一流プレーヤーの500万円だとか。

 「それに近かったのがサッチーが窓口だった野村(克也)さんの300万円。野村さんはそれ以下では受けなかった。星野(仙一)さんも200万は下りませんでしたねぇ。1回の講演料は90分から2時間。悪い話ではないでしょう。ただ、実績を含めて、このような人はごく一部です。講演料は言わば、CMの商品価値と同じですからね」

 こうした大御所が高額ギャラで引き受け、その後も高水準を保ち続けたことで「プロ野球選手のギャラは高い」という慣習が定着していったのかもしれない。もちろん、大物OBには“値崩れ”を起こさないようにオレたちがプロ野球選手の価値を保っているという自負もあるだろう。しかし、それによって弊害も生まれる。

 例えば、ある学校関係者が創立記念の講演とその後の野球教室にビックな元選手を呼んで盛り上がりを計画したとしよう。しかしながら学校側の現実的な予算なら50万円と交通費なら出せても300万円となると、とても出せない。

 「野球の底辺を拡大するために名前のある人を呼んで士気を高めたかったが、予算がねぇ」と諦めざる得なくなるわけだ。ある程度有名な私立でさえそう。予算が限られる公立校ならなおさらだろう。

 こうした中で打撃を受けているのはプロ野球OBそのものだ。なかでも巨人や阪神など人気球団の出身者が影響を受けているという。「いまでも巨人ブランドがあるようで、どうしてもギャラが高いと思われてしまう」からだ。

 一方で江本孟紀さんのようにボランティアに近い格安料金で引き受けると「勝手に低くするな!」と大物OBからおしかりを受けたりするから難しいところ。その点、広島OBは比較的常識の範囲で引き受けていて評判はいい。

 かつて、星野仙一さんも明大OBに「高すぎる!少しは底辺拡大のため野球教室は安くても引き受けろ!」と責められたこともあるという。球界関係者は「遡ればV9監督の川上哲治さんは当時のお金で100万で野球教室を受けていました。そんな流れで巨人出身という肩書がほしいがために巨人に行きたがる選手もいましたからね。いまでも元巨人の威光は少なからず生きていますよ」と話す。

 別に、需給のバランスでその価値があると認められているのだから高額ギャラが悪いわけではない。講演などは話の中身によっては、それなりの価値があるときもある。だが、確実に言えることはコロナの影響で企業はもちろん、地方自治体など社会全体が疲弊し、高額ギャラでは呼べなくなっていることだ。

 プロ野球選手のセカンドキャリアは厳しくなる一方。それによって、子供たちを呼んでの野球の底辺拡大の障害になっているのも事実だ。「まあ、講演は仕方ない面はあるが、せめて野球教室はボランティアでするべきです。野球界で活躍してお世話になった感謝とお礼があってもいいのでは?」とある球団の幹部は強く訴えていた。

 依頼する側とされる側のズレ。それとプロ野球OBの格差の広がり。新型コロナウイルス禍はこんなところにまで波及している。5年先、10年先の野球界が危ない。そう感じているのは私だけではないだろう。

 そんな中、日本プロ野球外国人OB選手会(JRFPA)は元日本ハムのカルロス・ミラバルさんらが音頭を取ってオンライン上で外国出身の元選手とファンの交流会を実施し、その収益の一部を医療従事者に還元。日本プロ野球OBクラブ(公益社団法人全国野球振興会、八木沢荘六理事長)も去る12日、東京スカイツリーのソラマチでキッズベースボールとトークイベントをようやく再開させた。地道な努力が実り、野球離れが進まないことを願うばかりだ。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース