逆転の発想?ちゃぶ台返しの暴論? 高齢者定義「65歳→70歳」→労働人口700万人以上増→定年や年金にも影響か

新居 理有 新居 理有

高齢者の定義が変わると「現役世代」人口は700万人以上増える

高齢者となる年齢を引き上げるもう一つの理由として、少子高齢化や財政問題への対策があげられます。学術研究や政策提言でも、定年延長により「現役世代」人口を増やして、より活発な経済活動を促すことが提案されています。

高齢者の定義が変わって定年年齢が70歳になると想定すると、「現役世代」人口はどれくらい増えるのでしょうか。2025年の将来推計人口のデータをもとに考えてみましょう。「現役世代」人口として、生産年齢(15〜64歳)人口を見ることにします。ただし高齢者の定義が変わると、15〜69歳人口へと生産年齢人口の定義も変わるとしましょう。

高齢者の定義が変わると2025年の「現役世代」が7,310万人から8,029万人へ、719万人増えます。総人口の約6%だけ労働者が増えるのと同じ効果です。少子高齢化で働き手が減り続けている日本では、大きなインパクトがあると言えます。

定年が5年も伸びるのはネガティブに聞こえるかもしれません。しかし、より長く勤める選択肢ができたと前向きに考えることもできます。さらに、定年が伸びると、自分自身の持つ技能や資格などがより長い期間役に立ちます。自己投資から得られるリターンをより長く受け取れるのです。

年金の受給開始年齢などがさらに見直されるかも

日本では現在、年金の給付開始年齢を65歳と定めています(厚生年金の一部は、65歳未満で受け取りはじめる方もいます)。高齢者の定義が65から70歳に変わることで、年金の給付開始年齢をさらに上げようという議論がはじまる可能性があります。ただし給付開始年齢の引き上げは激しい論争になりやすく、制度が変わるかどうかは不透明な見込みです。

また現在の枠組みでは、仮に受給開始年齢が上がっても、それより早く受け取りをはじめる繰上げ給付を選べます。繰上げ給付では受取額が減りますので、人生設計に応じて年金をどう受け取るか考えておくのが重要です。ただし将来、こうした制度は変わる可能性があるため、厚生労働省からのお知らせや年金に関する報道はチェックしておきましょう。

高齢者の定義が変わるかもしれない、というニュースには驚きの声が多くあがっていました。しかし海外に目を向けると、年金の受給開始年齢を引き上げる流れが広がっています。たとえば、日本年金機構が公開している「主要各国の年金制度の概要」を見てみましょう。多くの先進国で今後、年金の受給開始年齢が65〜68歳となる見込みです。また定年年齢が日本より高かったり、そもそも定年制度自体を認めていなかったり、といった先進国もあります。海外の事例もふまえつつ、日本社会にふさわしい定年・年金などの制度を整えていくべきです。

【参考】
▽厚生労働省 2022(令和4)年簡易生命表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/
▽厚生労働省 2023(令和5)年版厚生労働白書
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/22/index.html
▽統計ダッシュボード(人口ピラミッドの図は著者が一部加工)
https://dashboard.e-stat.go.jp/
▽日本年金機構「主要各国の年金制度の概要」
https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/kunibetsu/gaiyo.html

   ◇   ◇

◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。

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