米国を訪問している麻生自民党副総裁は23日、ニューヨークのトランプタワーでトランプ前大統領と会談した。会談は1時間あまりで、両者は揺るがない日米同盟の重要性を改めて確認し、海洋進出を強める中国や核・ミサイル開発を続ける北朝鮮、経済安全保障などについて話し合い、麻生氏が岸田政権の防衛費増額について伝えると、トランプ氏はそれを称賛し、日本のことが大好きだと満面の笑みだったという。
これについて、バイデン政権の関係者は、「全く下品」だと強く非難したという。確かに日本のナンバー2が米国を訪問し、現政権と強く対立する対抗馬と会談し、「もう1つの日米首脳会談」を行ったことはバイデン政権にとっては面白くない。しかもその2週間前に岸田総理が国賓待遇で米国を訪問しており、タイミングとしては物議を醸し出すかも知れない。
しかし、秋の大統領選挙を見据え、自国の国益を考え、今のうちからトランプ氏とお友達になっておこうとする「トランプ詣で」は何も麻生氏だけではない。トランプ氏が共和党予備選の山場スーパーチューズデーで圧勝した直後、ハンガリーのオルバン首相はフロリダ州にあるトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」を訪問し、トランプ氏は会談後オルバン氏を偉大な指導者だと称賛した。オルバン氏は保守的な姿勢で、以前には欧米諸国にウクライナへの援助を打ち切るよう求め、それがウクライナにロシアとの停戦交渉を迫る最も有効な手段だと主張し、物議を醸した。昨年秋には、中国でプーチン大統領とも会談している。
麻生氏の1週間前にはポーランドのドゥダ大統領もトランプタワーでトランプ氏と2時間半あまりにわたって会談を行い、ウクライナや中東問題について議論を交わした。ドゥダ大統領はいい雰囲気で会談が行われたとし、トランプ氏も彼が素晴らしい仕事をしたと称賛した。英国のキャメロン外相も4月にマールアラーゴでトランプ氏と会談している。
相次ぐトランプ詣でにはそれぞれの目的がある。選挙戦を戦うトランプ氏からすると、今のうちから自身の外交能力をアピールすることで支持拡大に繋げたい一方、トランプ再選リスクが叫ばれる中、各国としてはそのリスクを最小化し、米国との安定的な関係を維持する狙いがある。
いずれにせよ、トランプ政権と良好な関係を作る、トランプリスクを最大限回避するためには、トランプ氏の「良いお友達」になっておくことが重要である。8年前、トランプ氏がヒラリー・クリントン氏に勝利した直後、初めてトランプ詣でを行ったのが安倍晋三氏だった。50万円はするといわれる黄金のゴルフクラブを手見上げにトランプ詣でをした安倍氏は、そこで信頼関係を作ることに成功し、トランプ時代の日米関係は良好だった。
当然だが、日本外交の基軸は日米関係であり、米国は唯一の軍事同盟国である。その日本にとって米国との関係はマストであり、それなしに日本の安全保障は機能しない。そういう日本の置かれた状況を冷静に判断すれば、どんな大統領だろうが米国との関係は重要であり、そのためにはあらゆる選択肢を考え、前もってできることは全てやるべきだ。それがトランプ詣でであり、今回の訪問は極めて戦略的にも重要な会談だったと言えよう。