ウクライナ戦争が大きくロシア有利に傾く中、ロシアのプーチン大統領は3月13日、国営メディアでのインタビューで「現時点で核を使用する必要はないが、国家の存在が脅かされた場合には核を使用する用意がある」と言及した。
昨年、前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長もウクライナによる反転攻勢に対して核使用の可能性をちらつかせたが、今回、プーチン大統領は核使用について「軍事面、技術面の準備態勢ができている」と主張した。プーチン大統領はなぜこのような発言をし、また、今後のウクライナ戦争におけるシナリオをどう考えているのだろうか。
まず、短期的には来年1月に米国で新たな政権が発足するまでは大きな変化は訪れず、今日のロシア有利の戦況下で攻勢をエスカレートさせるだろう。昨年夏、ウクライナ軍は反転攻勢を仕掛けたが、それは失敗に終わり、今日米国など欧米諸国からの軍事支援は勢いを失いつつあり、ゼレンスキー大統領も「支援がなければ戦争に負ける」としている。プーチン大統領としては、今日の有利な環境を維持する中で最大限の攻勢を掛けていくことだろう。
そして、プーチン大統領が来年以降思い描いているのが、米国の脱ウクライナだ。トランプ氏は大統領に返り咲けば、「ウクライナ支援を真っ先に停止する」「戦争を24時間以内に終わらせる」と言及しているが、これはプーチン大統領にとっては全てが好都合だ。
プーチン大統領としては秋の大統領選でトランプ氏が勝利すれば、同氏に接近を図り、ロシア有利な状況下で停戦に持ち込めるよう要請する可能性があろう。トランプ氏もロシアに攻撃を止めるよう要請し、ウクライナに対しては支援を停止し、現状で停戦に応じるよう圧力を掛けることだろう。トランプ氏はノーベル平和賞を狙っているとも言われるが、これによって「ウクライナ和平を実現した」と豪語するかも知れない。
しかし、当然ながら、これはロシアによる占領を既成事実化するものでしかなく、停戦中にロシア軍は前線に武器や兵力を新たに投入し、プーチン大統領は再び攻勢を仕掛ける決断を下すことだろう。プーチン大統領が目指しているのはウクライナの属国化であり、少なくともゼレンスキー政権を崩壊させ、首都キーウを掌握するまでは戦闘を止めない。だが、その際、ウクライナから手を引いたトランプ政権がどこまでロシアを非難するかは分からず、興味さえ示さない可能性がある。この時点でトランプ氏にとってウクライナ戦争は“終わった戦争”でしかないかも知れない。
一方、こういった状況になれば、欧州諸国はロシアへの懸念をいっそう強め、各国がウクライナとの安全保障協力を強化し、米国なきNATOのように結束を図ることになろう。フランスのマクロン大統領は最近、地上部隊のウクライナ派遣の可能性を排除するべきではないとの意志を示し、オランダなど一部の国々もその可能性を否定しなかったが、双方が軍事衝突することになれば、それは第3次世界大戦が欧州で始まったというに等しい。
しかも、このシナリオで懸念されるのは、ウクライナで双方が衝突し、ウクライナでロシア軍が劣勢になった時点で核が使用される恐れがあることだ。冒頭のインタビューで、プーチン大統領は「国家の存在が脅かされた場合に」と言及したが、これはロシア領土が脅かされた場合だけでなく、ロシアの支配圏が脅かされた場合も含まれるだろう。今後、ロシア軍の実行支配地域が拡大するにつれ、核が使用される範囲、ケースも広がることが懸念されよう。核による第3次世界大戦が欧州で勃発するシナリオは決してフィクションではない。