ホワイトハウスを訪問した岸田総理はバイデン大統領と日米首脳会談を行い、半導体や人工知能、次世代太陽電池といった先端技術や戦略物資のサプライチェーンの強靱性を高めるため、経済安全保障分野での連携強化を図ることで一致した。この背景には中国が念頭にあり、中国が半導体や人工知能などの分野で影響力を高め、各国が中国への依存を深めれば、政治的緊張が高まった際に中国が輸出規制や関税引き上げといった手法で圧力を掛けてくる恐れがあり、俗に言う中国による経済的威圧に対処するためだ。
近年、中国は関係が冷え込んだ国々に対して経済的威圧を度々仕掛けている。新型コロナの真相究明や人権問題で追求しているオーストラリアに対し、中国はオーストラリア産のワインや牛肉の輸入を突然ストップし、同様に台湾に対しては台湾産のパイナップルや柑橘類、高級魚ハタなどの輸入を停止するなど、経済的攻撃を仕掛けることで相手に政治的プレッシャーを掛けてきた。日本に対しては、昨年8月、日本産水産物の輸入を全面的に停止する措置を講じるなど、諸外国の間では経済的威圧=中国という固定観念が確立している。
しかし、経済的威圧は別に中国だけに言えることではない。バイデン政権も最近は経済的威圧を強化している。バイデン政権は2022年10月、中国が先端半導体を軍事転用するのを防止するため、先端半導体分野で中国への輸出規制を強化したが、単独ではそれを防止できないと判断し、昨年初めに半導体製造装置で先端を走る日本とオランダに対して同規制に加わるよう要請し、両国は半導体製造装置の分野で中国への輸出規制を開始した。
だが、バイデン政権は日本やオランダの半導体関連企業が依然として中国で販売した製品を修理し、予備部品を販売していることで対中規制が上手くいっていないと強い不満を抱いており、最近はオランダに対し、オランダの半導体製造装置大手ASMLに対して修理しないなど中国向けのサービスを停止するよう要請した。また、バイデン政権は韓国やドイツにも規制に参加するよう呼び掛けており、中国の半導体産業の成長を何が何でも食い止めるような姿勢を示している。
各国には各国なりの中国との関係がある。日本にとっては依然として中国が最大の貿易相手国であり、米国による輸出規制要請をそのまま飲めるだけではない。実際、日本が開始した半導体製造装置関連の輸出規制は米国が求めるほど強い規制ではなく、日本の経済合理性とのバランスを配慮した規制である。しかし、内向き化する米国がそこを配慮することはないだろう。安全保障に直結する分野での対中規制は十分に理解できるが、その範囲を超えたかのような規制に協力する必要があるのだろうか。同盟国に同調圧力を掛け、中国の先端半導体の獲得阻止だけでなく、半導体産業発展そのものを阻止しようとする米国の行動も経済的威圧と言えるだろう。焦る米国は冷静さを失いつつある。