ウクライナ戦争でロシアの優勢が顕著になる中、フランスのマクロン大統領は26日、この戦争でロシアを打倒することは欧州の安全保障にとって不可欠であり、西側の地上部隊をウクライナへ派遣することで合意はないものの、その可能性を排除するべきではないとの考えを示した。
これについて、NATOのストルテンベルグ事務総長やドイツのショルツ首相はNATO加盟国の兵士が派遣されることはないとマクロン大統領の発言を否定するなど波紋が広がっている。しかし、リトアニアやオランダの政府高官などからは「全ての選択肢をテーブルに置くべきだ」「何が起こるか分からないので柔軟に考えるべきだ」とマクロン発言に肯定的な意見も上がっている。いずれにせよ、欧州の中では動揺が広がっていることは間違いない。
では、マクロン発言の真意はどこにあるのか。少なくとも2つ考えられよう。1つは、攻勢を強めるロシアだ。ロシアでは3月半ばに大統領選が行われ、プーチン大統領の再選が確実視されているが、選挙の不正や透明性などで強い疑念は残るものの、これによって2030年までプーチン政権が続くことになる。選挙に勝利したという政治的お墨付きを得たプーチン大統領が、ウクライナ侵攻でよりいっそう攻勢を仕掛けることは間違いない。
ゼレンスキー大統領などウクライナ政府高官からは、米国の支援がないと我々は戦争に負けるとの発言が相次ぐ中、3月以降、ロシアは現在の優勢を最大限利用し、軍事攻撃をエスカレートさせていくことだろう。そして、攻勢を強めるロシアの野望はウクライナに留まらず、旧ソ連圏だったが今日ではNATO加盟国であるバルト3国などにも及ぶようになり、NATOが集団防衛体制である以上、ロシア軍との正面衝突は避けられないという懸念をマクロン大統領は抱いているのだろう。
もう1つの懸念は、トランプ政権の再来だ。トランプ氏はウクライナへの支援を停止する、NATO加盟国が攻撃されても米国は守らないなどと発言して物議を醸しているが、ホワイトハウスに戻ることになれば、実際そうなる可能性が高い。
要は、「米国なきウクライナ戦争」という状態が生じるわけだが、それによって欧州諸国(特に東欧)はロシアへの脅威認識をいっそう強めることになり、「欧州VSロシア」の構図が鮮明となる。
大西洋を挟んでウクライナの戦場からかなた遠くにある米国と、ロシアとは陸続きの欧州諸国が抱く脅威認識には大きな違いがあろう。米国がウクライナ戦争に関与しなくなれば、英国やフランス、ドイツなどはウクライナとの二国間安全保障協力を強化するだけでなく、NATOなど多国間協力で対露結束を図ることになる。
今回のマクロン発言に波紋が広がっているのも事実だが、ロシアの攻勢がいっそう強まり、そのような中でトランプ勝利のシナリオが濃厚になってくれば、マクロン発言への理解は欧州各国で自然に強まってくるだろう。