子どもが被害者となる痛ましい事件もたびたび起きる昨今。そんな中、意外なところが子どもたちの居場所を提供して話題になっています。
そこは、京都花園教会水族館(@mokusokai)。入場無料だといい、担当者はその理由をXに投稿しました。
「昨日も来館の方から『なぜ?入場無料?』と質問されました。それは、
『お父さんが家にいるのに家の鍵をあけてくれないので、ここで暫く魚を見ていていいですか』
『いいよ。寒いもんね。お母さんはいるの?』
『お母さんはいま仕事に行っていない』
『そっか~。ゆっくりしていきなさい』
と、子どもが駆け込んでくることが度々あるからです。
これ、1円でもお金を取っていたら、その子は寒い中、ずっと外にいたかもしれません。入場無料を続けて12年目。子どもに笑顔を提供できる教会水族館を目指します!」
京都花園教会水族館の担当者にお話を伺いました。
ーー当初は「生きた魚を見たことがない」という子どものために水族館を作られたと聞きました。
「私は学生時代、ホームレス支援活動を行ったり、フィリピンのミンダナオ島の紛争地帯やゴミ山問題が深刻なマニラなどで、貧困について現地で視察や調査したりしていました。また、東日本大震災時には発災直後から現場に入り被災者支援や子どもたちの学習支援を行いました。被災地の現場は、フィリピンで見た紛争地での命の関わる『絶対的貧困』に近しいものを感じました。
一方、京都でとある少年から『生きた魚を見た事がない』と言われた時、マニラの現場で見た世帯所得の格差、いわゆる『相対的貧困』を思い出しました。被災地は絶対的貧困が広がり、京都では相対的貧困が広がっているということを知ったのです。
それまではなんとなく喜んでもらいたいと思って行動していたのですが、少年の言葉をきっかけにこれは使命的に行うべきと思うようになりました」
ーーいつしか子どもたちが訪れる場所になっていったのですね。
「教会の真向かいにある集会所に水槽を並べ、外からいつでも見られるようにディスプレイしました。そうすると通学路からすぐに見えるため、そこを通る子どもと話すことが徐々に増えていきました。館内で遊ぶ子も増えていきました。そしてひとり親家庭のお子さんがほとんどであるという事実を知ったんです。そこで、しっかりとした保険制度を確保できる任意団体を作る必要性があると考えました」
ーーなぜ保険制度が必要なのでしょう?
「親は家にいると子どもを鬱陶しく感じているので、他の場所で遊んでいることはOKなのです。しかし、怪我をして帰ってきたら医療費もかかるため、『勝手に人の子を遊ばせやがって!』と怒る親もいました。しかし保険で対応できるということを説明すると、お金もかからないし、家に子どもがいないので助かるという親が結構いたのです。ひとり親家庭で子育てをすることの難しさがここに如実に出ていると思います」
ーー万が一の時のための医療費をカバーするためだったのですね。
「そうすればここで遊ぶことを許す親が増え、こちらも子どものケアがしやすくなり、そこで家のことを吐露する子どもが増えます。その中には、親が精神的に病んでしまった子もいましたし、そのようなケースでは児相と相談し、私が親に変わって保護者の代わりのような面会や精神的なケアを進めていきました」
ーー何度も訪れる子もいるのでしょうか。
「はい。当館は無料なので、毎週来る子もいます。現在はそのように頻度が多い子には、任意団体の子ども会(現在は京都市青少年育成団体として認定されている)に入ってもらい、しっかりとしたサポート体制を構築しています」
ーー生き物と触れ合うことで、子どもが心を開いてくれることはありますか。
「これは生き物の不思議な力だと思います。そして生き物の生態やなぜここに来たのか?ということを説明すると、子どもの中にある好奇心が駆り立てられたり、自分との境遇と重なったりして色々喋ってくれます。自分の好きな生き物がいると、自分から『これはこんな生き物なんだよ!』と私たちに教えてくれることもあります。説明する子ども達の顔は、とても生き生きしています。『すごい!よく知っているね。教えてくれてありがとう!』と伝えると、またよりいい笑顔をくれます」
ーーなぜ彼らに悲壮感がなく、希望に満ち溢れていると思われますか。
「現在、当館には様々な生き物たちがやってきます。淡水魚なので他の水族館ではなかなか見ることができない種も沢山います。そういったことを知っていると、『自分だけの水族館』という思いを持つことができ、そんな水族館に自分も関わっているというだけでセルフイメージが高まるんだと思います」
「最近ですと、海洋学で世界的な権威を持つアメリカ・メイン州にあるボウディン大学から京都に交換留学生でやってきた留学生から希望があり、当館でボランティアをしてもらっています。子どもたちが外国人と触れ合える機会はほとんどありませんし、ましてや海洋学の最先端のリベラルアーツの大学の学生さんと会う機会は滅多にありません」
ーー刺激的な場所でもある?
「最初は淋しいからと思って来た場所が、実は学校にはない、普段関わることがない人たちと触れ合える場所だった。すると、『来てよかった!自分の選択は良かった!』と感じる子も出てきます。実際、ここに通い続けた子どもが、現在海洋学を学ぶために進学しています。その人の人生の一端を担う事が許されている水族館。この事実こそまさに希望ではないでしょうか」
投稿を見た人からは、「素敵な活動ですね。そんな家庭が無くなることを祈っています」「子どもたちが安心して過ごせる場所を提供することは、地域社会にとって貴重な貢献です」「わが町の図書館も21時までやっていて、自習室もあります。逃げ場があるというのはありがたいですね」といったコメントが寄せられ「いいね」は2.6万件にもなりました。
子ども達がSOSを発信できる場所がある、さらにそこで成長できる。寄付で運営されている京都花園教会水族館。これからもその活動を応援したいですね。