タバコのポイ捨てで、屋外展示の魚が大量死…犯人は動物愛護法違反に問えるか、損害賠償は請求できるか【弁護士が解説】

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石井 一旭 石井 一旭

6月27日、京都市内の花園教会が運営する水族館で、何者かが水槽に煙草をポイ捨てしたことにより、野外水槽内の魚の9割以上が死滅するという事件が発生しました。

同教会はこれまで「居場所のない子どもが1人でも来られるように」という理念のもと、運営費を寄付でまかない、入場料無料で開放していたのですが、事件の発生を受け、やむなく魚の野外展示を中止することにしたそうです。実際に、私が7月に現地に伺った際には、既に野外展示は撤去されていました。なお、ホームページを見る限り、屋内の展示は完全予約制で継続されているようです。

タバコに含まれるニコチンは極めて毒性が強く、しかも水溶性でもあり、ポイ捨てされた水槽内の魚に毒素が回ってしまったための大量死だと推測されています。

刑事罰について

このような行為を行った場合、犯人は厳罰化された動物愛護法の虐待規定にもとづいて処罰されるのでは、と思われるかもしれません。

しかし残念ながら、タバコをポイ捨てして魚を死滅させても、動物愛護法違反に問うことはできません。

なぜなら、動物愛護法44条は「愛護動物」を殺傷した場合に適用されるところ、魚は「愛護動物」に含まれていないためです。一方、犬猫や、飼育されている哺乳類、鳥類、爬虫類であれば、「愛護動物」に含まれますので、例えばわざと地域猫や人に飼われている文鳥・ハムスターなどにタバコを食べさせて殺傷すれば、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」という重刑が科される可能性があります。

本件のように「愛護動物」に該当しないペット、例えば魚や昆虫などを殺傷された場合、刑法261条の器物損壊罪が問題になります。「他人の財物を損壊し、又は傷害した」ということで、この場合、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料の罰と規定されています。

しかし処罰法規の適用には様々な高いハードルがあります。

そもそも外飼いのペットは誰かが四六時中見張っているわけではありませんから、犯行が現認されているとは限りません。その結果、犯人を特定できる証拠がないことが往々にしてあります。警察の捜査力にも限界がありますから、犯人が見つからなければ「お蔵入り」となってしまいます。これを防止するには、屋内飼育にする、監視カメラをつけておく、など普段から工夫をしておくしかないでしょう。

仮に犯人を特定できたとしても、故意の問題があります。

器物損壊罪は故意犯ですので、成立には犯人の故意が必要となります。故意とは、犯罪結果を認識し、認容(犯罪の結果が生じても構わないと意識)していることです。もし犯人が魚の存在に気づかずにタバコを水槽に捨てたのだとすれば、犯人は犯罪結果(魚の死滅)を認識も認容もしていないので、犯人には故意が認められず、器物損壊罪は成立しません。

ところで本件の場合はどうでしょう。

私が現地を確認したところ、水槽は教会前の駐車スペースの奥に設置されていました。歩行者がポイ捨てして届かせるには遠すぎる距離ですから、犯人はあえて水槽にタバコを捨てたと考えられます。そして現場には「CHURCH AQUARIUM」と表示がされており、魚を模した飾りも備え付けられていました。このような掲示があれば、水槽内に魚がいることも認識できたでしょう。そうすると、「水槽に魚がいるとは気づかずにポイ捨てした」と犯人が主張しても通らないのではないかと思われます。

民事上の責任について

魚の飼い主である教会側は、犯人に対し、民事上の責任として、魚を殺されてしまったことにより生じた損害を賠償するよう請求することもできます。

もっとも、高値で取引されている希少な観賞魚であれば相当な金額の賠償が発生するでしょうが、死亡したのは鯉や金魚、フナで、いずれも稚魚から育てたり飼育放棄されたものを引き取ってきたものということですから、損害額は認められたとしても低額にとどまってしまうでしょう。

魚の喪失以外には、野外展示を継続するのであれば水槽の消毒費用や買換費用、再発防止の防犯費用などが認められる可能性はあると思われます。仮にここが有料の水族館であったならば、閉鎖期間中の利益相当額なども賠償の範囲に含まれるでしょう。

飼い主の慰謝料については、長年運営されてきた水族館で可愛がられてきた魚ということですが、「物損に慰謝料は原則として発生しない」という裁判の慣行を考えると、認められる可能性は低いと言わざるを得ません。

故意の犯行なのか、過失による事故なのか、どちらが真実なのかはわかりませんが、このような痛ましい事件が二度と起きないことを願うばかりです。

   ◇   ◇

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

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