アメリカの高校運動部で最も人気のある種目のひとつであるアメリカンフットボールのシーズンが始まった。しかし、暑さのために予定通りに練習や試合ができないことも多い。
各州の高校(中学も含む)体育協会では、スポーツ活動時の熱中症を防ぐため、暑さ指数によって活動できる内容に制限を設けている。テキサス州の中高の運動部を管理運営するUILでは、暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)が華氏93(摂氏33.8)を超えたときには、屋外でいかなる活動もしてはいけないと通達している。
8月21日のFOX4ニュースによると、テキサス州北部の高校アメリカンフットボール部の試合が、暑さ指数が基準を超えているために時間通りに開始できず、日没によって指数の下がるのを待って、午後7時30分や午後8時開催となったという。また、これ以前の練習にも影響があり、中止にせざるを得なかったり、暑さ指数の基準値内にある屋内での練習に切り替えられたりしたと伝えた。
基準を守って活動することで生徒の命を守る。そして、もしも、熱中症が起こった場合には、適切な環境で活動していたかという指導者や管理者の責任が問われるので、訴訟対策という点でも疎かにできない。2019年に16歳のバスケットボール選手が熱中症で死亡する事故があった。暑さ指数を無視し、安全な方法で活動を行っていなかったとして、教育委員会と遺族は1000万ドル(約14億円)で和解した。
死亡事故が起こっても日本の熱中症対策はあまり変わらないと指摘されるが、アメリカは死亡事故による遺族の悲しみと訴訟によって、安全対策を進めてきたともいえるのではないか。
ただし、暑さによってほとんど屋外での練習ができず、試合の開催にも影響が出るのは、アメリカンフットボール部など運動部の望むところではない。アメリカでは、暑さ指数を人工的に抑えられるように、練習兼試合会場となる学校のアメリカンフットボール場に屋根をつけるところが出てきた。
テキサス州ダラス近郊のメスキート・インディペンデント学校区の高校では、アメリカンフットボール場全体に屋根をつけることによって、風通しを確保したまま、10度近く気温を下げられる環境を作った。コーチのマクレーンさんは「このパビリオンは画期的なものです。私たちは暑さのために例年、20-25回の練習を失っていました。もう、これほど練習を逃してしまうことはないでしょうし、なによりも、子どもたちやスタッフを守ることができます」としている。
気になるのは費用だ。地元のCBSニュースによると、同学校区では5つの高校に屋根をつけたパビリオンを建設する予定で、5校分の総コストは2500万ドル(約36億6000万円)だと報じている。