野球選手→生命保険会社で奮闘 元ロッテ青松のセカンドキャリア、現役時代のファンとの思わぬ交流も

小森 有喜 小森 有喜

元千葉ロッテマリーンズの青松慶侑(あおまつ・けいよう=38歳)さんは現在、生命保険会社で「ライフプランナー」としてセカンドキャリアを歩んでいる。

京都出身の青松さんは上宮太子高校(大阪)を経て、2005年にドラフト7位でロッテに入団。プロ9年目にしてようやく1軍初ヒットを放った苦労人だ。それでも、イースタン・リーグ(2軍)では通算80本塁打を放ち、同リーグの本塁打王・首位打者の2冠を獲得した年もある。なかなか1軍での出場機会が得られない中でも腐らず、ひたむきにプレーする姿勢で多くの選手やファンから慕われ、プロの世界に長く身を置いた。

「人よりも多く練習するとか、多少ケガしても痛いの痒いの言わずにプレーするとか、そういう姿勢だけは後輩たちに見せたいと思っていました」と青松さんは振り返る。

2016年限りでロッテを自由契約に。トライアウトを受けたが他球団から獲得のオファーを受けるまでには至らず、現役引退を決意した。1軍ではプロ通算12年間で26試合に出場、打率.214、1本塁打、5打点だった。

ロッテ球団は選手をサポートする裏方としての道を青松さんに提案してくれたが、悩んだ末に野球界以外に身を置くことに。ソニー生命保険に就職し、ライフプランナーという第2の人生を選択した。同じ道に進んでいたロッテの先輩選手から話を聞いて、仕事内容に魅力を感じていたのだ。資格も取得し入社2ヶ月で1人で営業を任されるまでに。20年には営業所長になり、チームをまとめる役割を担う。

野球と現職の共通点について青松さんはこう話す。「野球は、いかに失敗の確率を減らせるかというスポーツ。同じように今の仕事も、失敗があった時に原因を振り返って仮説を立てて対策をして次を迎える、この取り組み方は現役時代と同じだなと感じることがあります」。

逆に現役時代との違いについて問われると、こう語った。「プロ野球の世界は実力だけでなく、チーム編成の事情などさまざまな要因で出場機会の数が変わるけれど、営業の仕事は自分の頑張り次第でいくらでも打席に立てる」。例えば青松さんは現役最終年、2軍で13本塁打と結果を残していた。しかし当時のロッテは1軍に青松さんと同じ一塁手・指名打者枠の戦力が潤沢だったこともあり、一度も昇格のチャンスを得ることができなかったのだ。

「2軍でいくら結果を残していても、客観的に組織を見渡して『枠が決まっているから(1軍に)上げてもらえないな』と覚悟してプレーしている時期もあった。そういう意味では、今は自分自身でお客様との接点をつくってチャンスをつかみに行けるからそこは違いだと思うし、逆にプロ野球での経験が生きている部分だと感じます」

現在はプロ野球選手のセカンドキャリア形成のサポートにも力を入れている。「元選手のライフプランナーという立場だからこそ出来ることもあると思う。現役中にやっておけばよかったと思う後悔を現役アスリートにお伝えし、かつ現役後のキャリアの心配を取り除くことによって、競技に集中し後悔のない現役を送れるようサポートしたい」と話す。

 ◇   ◇   ◇

そんな青松さんだが、現役時代の思い出については、長らく振り返る気にならなかったという。新しい世界に飛び込み、第2の人生を成功させることに集中したいという気持ちが強かった。「過去のこと、終わったこととして捉えていた」といい、昔の写真や映像を目にすることは全くなかった。

心境に変化があったのが、昨年6月。東京ドームで巨人―ロッテ戦をベンチ間近の内野席で観戦した時だった。グラウンドには吉井理人監督をはじめ、コーチ陣にも根元俊一さん、大塚明さん、福浦和也さんらかつて共に戦った仲間たちがいた。荻野貴司外野手は1歳年上だが、まだ現役で活躍している。「引退して8年経っていましたが、何だかベンチの中にいる感覚になったというか…。昔を振り返ってみようかなという気になったんです」。

そこで、Xの投稿でこう呼びかけた。「ロッテを応援する方にお願いがございます。ロッテを離れて8年経ちますが、私の現役時代の写真をお持ちの方いらっしゃいましたら写真をコメント欄に載せていただけないでしょうか」。

するとロッテファンを中心に投稿が拡散され、インプレッション(閲覧数)が200万回を超える反響に。1年目から引退した年まで、さまざまな場面をおさめた計1000枚以上の写真が寄せられた。ファンからは写真に添えて「打席に立った時のこのルーティンが好きでした」「浦和(2軍)でひたむきに取り組む姿がずっと心に残っています」といったコメントが寄せられた。青松さんは写真やコメントに、丁寧にお礼の返信をして回った。

「現役時代で最も印象に残っている」と振り返る試合の写真も多く寄せられた。2015年6月6日、神宮でのヤクルト戦。この時の青松さんは、直近の2軍戦で10試合で8本というペースでホームランを放つ猛アピールをして、待ちに待った1軍昇格を果たし、スタメン出場を掴み取った。

試合前のスタメン発表で「6番、ファースト、青松」とアナウンスされると、レフトスタンドのロッテファンから大歓声と拍手が起こった。ファンも青松さんの昇格を待ちわびていたのだ。「ファンの人たちも2軍の結果を見てくれてて、自分が上がってきたことを喜んでくれてることが伝わってきて…。すごくうれしかったですし今でもあの瞬間が忘れられません」。

そして青松さんはこの試合で、ヤクルトの左腕・石川雅規投手の変化球を捉え、レフトスタンドにプロ初ホームランを放つ。歓喜するロッテファンの「青松」コールに、帽子を取り深々と礼をして応えた。試合後、球場に招待していた家族や友人たちからも祝福され、忘れられない日になった。今回のXの投稿でもこの試合の写真が多く集まり、青松さんは「僕なんかのためにこんなにたくさん…って、驚きもありましたし本当にうれしかったです」と笑顔を見せる。

寄せられた写真には、ファンとの記念撮影や球場前でサインをする姿のものも目立つ。こうしたファンサービスを大切にしていたのは、もともと芸能事務所に所属していた妻からの助言がきっかけだという。「結婚する前、付き合っていた時ぐらいかな。『もっとファンの人を大事にした方が良いよ』って言われて」。以来、試合や練習後にサインや記念撮影を求められれば、できるだけ応じるよう心がけた。ブログも立ち上げて情報発信し、ファンとのコミュニケーションを大切にした。

青松さんは「選手からすると、ファンの後押しで実力以上のものを出せる時って本当にあるんです。ファンあってのプロ野球ですしね。嫁さんに言ってもらってそういう風に心がけた結果、今もこうやってファンの方が覚えてくださっているし、Xで懐かしいやり取りができているのかなって思っています」と話している。

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