ウクライナ戦争で浮かび上がった「食糧安全保障」の重要性 台湾有事などへの備えは

治安 太郎 治安 太郎

ウクライナ戦争から1年が経つが、未だに和平への兆しは全く見えず、ウクライナ東部バフムトを巡る双方の交戦は激しさを増している。

ウクライナ戦争を巡っては軍事や安全保障を領域だけに世界の関心が集まっているが、世界経済への影響も計り知れない。そして、世界経済への影響という意味では、昨年世界の小麦輸出の3割を占めるロシアとウクライナからの輸出が大幅に減少し、小麦など穀物の価格が跳ね上がり、グローバルサウスの国々は大きな影響を受けた。

ペルーでは穀物価格上昇に対して市民による抗議デモが全土に拡大し、暴徒化した市民が飲食店を放火したり、商店で略奪行為を行ったりするなどしたことで、政府が国家非常事態宣言を発令した。スリランカでは食糧や医薬品、燃料など生活必需品が不足するなどして治安が悪化し、一部の欧米諸国は昨年、スリランカへの不要不急の渡航を控えるよう国民に呼び掛けた。

これは日本にとっても対岸の火事ではない。我々日本は多くの食料を海外に依存している。グローバルサウスの国々ほど暴力沙汰にはなっていないが、日本国内でもウクライナ戦争によって物価高にいっそう拍車が掛かっている。それによって、スーパーやコンビニで売られる商品の値上げラッシュが我々の日常生活を直撃している。そして、食糧の安全保障を考えれば、今後我々は以下2つのことを考える必要がある。

1つは、台湾有事だ。台湾有事の可能性については多くの議論があるが、はっきりしていることは習国家主席が台湾統一を強く掲げ、その武力行使を否定しないことから、我々は発生するという前提に立って食糧安全保障を考えなければならない。仮に有事となれば、中国は台湾周辺の制海権を握るだけでなく、台湾周辺の海域は戦場となる恐れがあることから、フィリピンから運搬されるバナナ、最近スーパーでもよく売られる台湾産パイナップルなど食糧の安定的供給に影響が出てくる恐れがある。

また、グローバルサウスにおける人口爆発、経済格差なども不安定要因となる。最近、国内人口でインドが中国を追い抜いたが、グローバルサウスにはこれから経済発展を遂げようとする国が多く、若者の人口が急激な増加傾向にある。若者の人口増加は国の経済発展にとって明るいニュースとなるが、それによって教育や雇用、経済面での格差がいっそう広がり、返って治安悪化要因になることへの懸念も少なくない。日本が多様な食料をグローバルサウスに依存しており、こういった国々で政治や治安が悪化すれば、日本へ輸出にも大きな制限が出てくる恐れがある。

一方、国際連合食糧農業機関(FAO)は2013年、資源を巡る国家間競争の激化、世界的な人口爆発を想定し、食糧問題の解決策のひとつとして昆虫を食用としたり、家畜の飼料にしたりすることを推奨する報告書を公表した。要は、「世界の皆さん、昆虫食をお考え下さい」ということだが、食糧安全保障の脆弱な日本としては、上述のリスクを想定し、昆虫食などの新たな選択肢も取り入れながら、総合的にこの問題を考えていくべきだろう。 

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