今回の共産党大会では、習近平氏の独裁化が顕著となった。大会最終日に明らかになった指導部人事を眺めると、習氏と距離がある人物は一掃され、最高指導部は習氏の側近たちで固められた。これで習氏に本音を言える人物は消え、習氏は本当の意味で独裁者になったと言えよう。2期10年の党規約を打ち破った時点で、永遠の指導者は確実視されていたが、これで習氏による強硬姿勢はいっそう強化されよう。共産党大会の最終日、胡錦濤前国家主席が退場を明示されたシーンはそれを強く我々に想像させる。
今回の党大会の席で、習氏は緊張が高まる台湾問題を巡り、「祖国の完全な統一は必ず実現しなければならないし、必ず実現できる。平和的な統一を堅持するが決して武力行使を放棄しない」と警告した。原則平和的手段、それが難しいと判断した場合は軍事的手段ということだろうが、これまでにも増して現実感があり、台湾に対する外交的、経済的、そして軍事的“いじめ”はさらにヒートアップすることだろう。
台湾の外相にあたる外交部長は10月26日、習政権の3期目に中国が台湾への外交的攻撃を強める可能性が高いとの懸念を示した。近年、中国は台湾と国交を持つ国々に経済支援などと接近し、中国との関係を樹立させては台湾との断交で圧力をかけてきた。経済支援を必要とする中小国はこれに乗り、台湾との外交関係を一方的に終了させる国々が相次いでいる。正に断交ドミノだ。現在台湾政府を公式に認めているのは南太平洋やカリブ海を中心に14カ国にまで減っている。中国はパラグアイに対して新型コロナワクチンを提供するにあたり、台湾との外交関係断絶を条件としていたことも明らかになっている。
また、経済面において、中国は近年台湾産のパイナップルや柑橘類、高級魚ハタなどの輸入を突然一方的に停止するなど、台湾経済へ打撃を与える攻撃を強化している。習政権3期目も同様に経済的攻撃をエスカレートさせてくるだろう。軍事面では、8月はじめのペロシ米下院議長が台湾を訪問して以降、台湾周辺での軍事演習やミサイル発射、中国軍機の中台中間線越えなど威嚇を強化しているが、3期目においてはこういったレベルの軍事的威嚇を常態化させ、何か起こるごとに脅しをかけてくることだろう。
そのような中、台湾経済部は台湾有事に備え天然ガスや石炭などエネルギーの備蓄を強化する方針を明らかにした。台湾はエネルギーの98%を輸入に依存しているが、有事が現実味を帯び始めたことでエネルギーの確保が重要項目になってきている。今後、天然ガスの備蓄量を11日分から2030年までには20日分以上に増やすなどエネルギーの備蓄を強化するという。
習政権3期目で、外交的、経済的、軍事的という多方面からの圧力が強化され、台湾はそれに対してエネルギーの備蓄を強化するなど、台湾を巡る情勢はストップがかけられず、状況はいっそう有事に向かっている。台湾邦人の退避も今のうちからできる範囲で進めていくべきだろう。